23話 帰路
ついに線路の先にマークプレイン駅がが見えて来た。
ホームには沢山の兵士の姿があって、下りの線路上には複数の列車が停車しているようだ。ボクの後から到着した軍用列車がみんなこの駅に集結しているんだな。でも、ボクの帰りをまって、上り線のホームは開けて待っていてくれている。
ぷわぁぁぁぁぁん。
速度を落としてゆっくりとホームに入線し、停車位置で停車させた。
車内からの大歓声とホームから拍手の嵐で大騒ぎになっている中、駅長と、将軍がボクに近づいて来た。 列車から降りた2名の小隊長も駆け足でやって来て敬礼した。
「報告します! クラクトン小隊専用軍用列車とともに魔物の城に突入し、監禁されていた学生全員を救出し、離脱して参りました! なお、学生に負傷者無し。 王国軍の負傷者は、第一小隊1名、第二小隊3名、いずれも軽症です!」
「えぇっ? 列車とともに、ってどういうことですか?」
駅長が驚いて尋ねた。
「はい!この列車が空を飛び、魔物を跳ね飛ばして走り、全員を救出し、また飛んで戻ってきました!」
「列車が飛んだ?魔物を跳ね飛ばした?」
駅長の目が大きくなったままだ。
「うむ、別途詳細な報告を聞かないと、何が起きたのかは全く理解できないが、とりあえず、救出完了、全員無事、ということは了解した。まことにご苦労であった。まず、王国軍は報告の確認と魔物に対する戦略を立案するまで、当地で待機とする。全員下車!」
将軍が2人の小隊長たちにそう指示すると、小隊長たちは兵士の乗っている車両へ走って行った。
将軍はボクと駅長の方に向きなおした。
「そして、生徒の皆さんは一刻も早くカスティリア中央の学校まで送り届けて差し上げたいのだが、駅長さん、協力して頂けないだろうか。」
「もちろんです。すぐに専用列車を仕立てましょう。」
「あの・・、駅長さん。ボクではだめですか?」
「えぇ? クラクトンの17号列車、キミは今魔物と戦ってきたところだろう?空も飛んだとか・・。」
「いえ、大丈夫です。不具合箇所もありませんし、魔力量も問題ありません。それよりボクは乗客を無事に送り届けたいんです。」
「そうか。キミが大丈夫と言うのなら、キミにお願いするのが最適だとは思うが・・ なにせ飛んだ後の列車の運用なんか経験が無いからねぇ。本当に大丈夫なのかね?」
「お任せ下さい。可能なら、タマミちゃんをクラクトン・シーまでしっかり送り届けたいと思ってます。」
「わかった。ではお願いするよ、頼んだよ。 出発信号機、この列車を臨時特別急行扱いでカスティリア中央駅まで調整してくれ。生徒さん達を少しでも早く学校へ戻してあげよう。」
「承知しました。シルバーフォレスト線内を臨時特急として運行ダイヤを調整。」
そこへ小隊長2人がやってきた。
「隊員は全員下車しました。17号列車、本当にありがとう。キミは勇敢な列車でクラクトンの、いや、王国の誇りだよ。我々がクラクトン基地へ戻ったら、キミの車庫へ挨拶へ伺わせてくれ。そして、あと少し、生徒たちをよろしく頼んだよ。」
「ボクも皆さんのおかげで無事に戻って来られました。それに、ボクにこんなチャンスを与えてくれて、感謝してます。また、クラクトンでお会いしましょう。」
出発信号機が呼びかけてきた。
「クラクトン線17号列車、カスティリア中央まで臨時特急として運行ダイヤ調整完了です。出発準備はよろしいですか?」
あ、ボクも準備をしないとな。増車部分を消して、と。よし、元の編成に戻ったぞ。
「はい、バッチリです。」
「え?キミは編成調整の魔法が使える列車だったのかい? クラクトン線に、そんな列車は配備されてないと思ったが・・。」
駅長が更に目を丸くしている。
「えぇと、ついさっき、出来るようになったばっかりなんです。」
「うーむ。なるほど。空を飛んで魔物を跳ね飛ばした話と総合すると、キミは何かが覚醒したようだね、なるほど、それなら納得できるし、安心してキミに任せられるな。 出発信号機、合図を頼むよ。」
「それでは、クラクトン線17号列車、特急運行、制限速度は100キロまで開放。進行許可を許可します!」
「了解。出発、進行。制限100!」
ぷわぁぁぁぁん。
大きく警笛を鳴らして出発する。
ホームの王国軍兵士たちが大きく手を振っている。
カタタタン、カタタタン。
速度100キロに到達、順調な運行だ。
さっきまでの車内とは打って変わって、生徒たちの楽しそうな笑い声が響いている。
おっと、信号機の表示が減速に変わったぞ。速度を落とすと、次の駅が見えてきた。出発信号機は停止を表示している。特急ダイヤで調整済じゃなかったのかな?
既に魔物のエリアは終わってるのだけど、さっきまでの癖で、ホームの人影が魔物じゃないか確認しながらゆっくりとホームに入線させる。うん、魔物じゃないみたいだな。
停車位置で列車を止めた。駅名標にはパルモリブシティと書かれていて、周辺の景色を見ると、確かに少し大きな街のようだ。
駅長がやってきた。
「キミが英雄のクラクトンの17号列車だね。お疲れ様だったね。」
「駅長さん、何かあったのですか? 臨時特急扱いでダイヤが組まれたと聞いていたのですが。」
「あぁ、大丈夫。問題が起きた訳じゃぁないんだよ。王室からの依頼で鉄道管理局が手配したんでね。ほら、あれさ。」
駅長が指さす先には、大きな荷物を積んだ台車が2台向かってきていた。
「あれ、何ですか?」
「飲み物と弁当とオヤツだよ。生徒さんたちへの差し入れだ。ホーム側のドアを開けてもらえるかい?」
ドアを開けた。あぁ、なるほど。みんな何日も監禁されてたんだもんな。
「これを積み込み終わったら、すぐ発車するので、少しだけ待っててくれないか。」
「なるほど了解です。それは皆も喜ぶでしょう。」
車内に差し入れが配られると、生徒たちの嬉しそうな黄色い声が聞こえてきた。
良いね、楽しそうだ。そうだよな、冷たい飲み物と温かい食べ物、これでやっとリラックスできるってもんだよな。
「よし、積み込み完了だ。引き続き、カスティリア中央までよろしくな。」
駅長が大きく右手を振った。
ドアを閉めると、出発信号機が呼びかけてくる。
「クラクトン17号列車、いや、ヒーロー列車、特急運行、制限速度は100キロまで開放! 進行許可! ありがとう、お疲れ様!」
「了解。出発、進行。制限100!」
速度100キロ、順調な運行だ。車内は、差し入れのおかげか、生徒たちのさっきよりも大きな話し声や笑い声が溢れている。
カタタタン、カタタタン。
それでも30分位経つと、車内は反対に静かになっていった。みんな疲れてるし、お腹も満たされたので眠ってしまったようだ。これこそ、リラックスしてくれる証拠だよな。本来の列車冥利に尽きるって感じだ。ボクらは魔物を跳ね飛ばすことが仕事じゃぁないからねぇ。
タマミちゃんは右手にお菓子の大きな袋を持ったまま眠ってしまっている。
本当に疲れていたんだな。
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