32話 営業運用
6時に起床。始発列車のクラクトン・シー駅発車時刻は6時20分なので、そろそろ車庫時間だ。
出発信号機が進行表示に変わった。
「17号列車、おはよー。あ、ちゃう。研究員列車さまやったね。出発準備はよろしいか?」
早朝のお約束、小さな声での呼びかけだった。
でも、まだ関西弁シリーズが続いてたとは。そして、更にインチキ関西弁っぽさが増しているじゃないか・・。
「おはようございます。なんか関西弁と言うより、西日本全員集合みたで豪勢になって来ましたね。」
「そうや、皆のテンションあげよと思って、いろいろ試してん。17号研究員列車、速度制限30キロで進行許可だっちゃ!」
あぁ、ついに富山弁まで混ざっちゃったよ。もう何も言うまい。
「出発、進行。制限30!」
クラクトン・シー駅に入線する。やっぱりホームには明子おばあちゃんが待っていた。
「おはよう、17号列車ちゃん。久しぶりに一緒にカスティリア中央まで行けるわね。やっといつもの通りに戻ったのね。」
「おはようございます、明子おばあちゃん。あ、そうだ、昨日タペストリー貰いました。明子おばあちゃんが花を刺繍してくれたって聞きました。ありがとうございます。もう車内に飾っちゃいましたよ。」
「あぁ、タマミちゃんが帰って来た日に、お家まで一緒に送ってたでしょ。その時に、タマミちゃんが言ってたの。17号列車さんが元の車両を失ってまで守ってくれたんだって。それで、タペストリーも無くちゃったから、直ぐに新しいのを作らなきゃって。」
そうだったんだ。タマミちゃん、結構状況を良く見てたんだな。
駅員がやってきた。
「おーっす。17号研究員さま。ついに営業運行に復帰ですな。復帰第一戦、ガツンと行きましょう。」
「おはようございます。えぇ、ガンガン行きましょー。」
「カスティリア中央行き始発、普通列車は間もなく発車しまーす。」
駅員が笛を咥えたが、何故か笛を吹かずに首を傾げて呟いた。
「うーん、何か忘れてる気がする・・。」
ん?確かに何かが足りないような・・。
パタパタパタパタ・・
あ、これだ。
「待ったー。ちょっと待ったー!」
タマミちゃんが駆けてくる。
「やっぱりこれか。ほら、駆け込み乗車のお姫様、ダッシュ!」
駅員が笑ってる。
列車に飛び乗った。
「はぁはぁ。おはよー。」
うん。見事なまでに日常が戻って来たぞ。
「はい、ドア閉まりまーす」
駅員の笛でドアを閉めて出発信号の合図を待つ。
「17号研究員列車、運用復帰へお帰りー。今日も安全運行で行きましょう。17号研究員列車、速度制限は60キロで進行許可!」
「出発、進行! 制限60!」
営業運行は軍用列車とは違う、緊張感があるよなぁ。
「ふぃーーん」
お、甲高いホイッスルの警笛。側線の魔法機関車だ。
「ぷわん。」
おはよー。
カタン、コトン。
線路の継ぎ目を通過する音が気持ちいい。小さな鉄橋を渡って、踏切を通過する。列車になって、訳もわからずここを走った初日のことを思い出してしまった。本当にわけがわからなかったけど、出発信号機の進行表示を見て、鉄魂が疼いて、この風景を見た時にはもうすでに列車として楽しんでたっけなぁ。それが今では王室所属の列車になっちゃって。面白い人生だよな。
クラクトン駅に入線する。今日もお客さん多いなー。
「カスティリア中央行き、普通始発列車、発車しまーす。」
ピピー。 駅員が笛を鳴らして、右手を振る。
ドアを閉めて出発信号機の指示を待つ。
「17号研究員列車、60キロで進行許可です、行ってらっしゃい。」
「出発、進行! 制限60!」
カタン、コトン。カタン、コトン。
終点、カスティリア中央の大きなドーム駅舎が見えて来た。営業運行でここに来るとやっぱりちょっと感覚が違うね。鉄道の一員って感じがするんだよね。
ゆっくりと停車位置ピッタリで列車を止めた。
「カスティリア中央。カスティリア中央。ご乗車ありがとうございました。中央改札は2階、お乗り換えは1階通路をご利用下さい。」
いつもの、ボクが勝手に有名アナウンサーの声だと決め込んでいる自動アナウンスが流れる。
明子おばあちゃんとタマミちゃんが手を振りながら改札へ向かって行った。
「行ってらっしゃい!」
少しすると駅長がやってきた。
「お疲れ様。営業運用復帰だね。ところでさっき、鉄道管理局から連絡があったんだけど、17号列車が、王室直属魔法研究所の研究員になったことに伴って、車両の改修作業があるそうなんだ。」
「そうなんですか?何が変わるんですかね?」
「私も経験が無いから正確にはわからないんだけれど、多分、基本編成の車両数とか、内外装が変わるんじゃないのかな。」
「へぇ、なんだかちょっと楽しみですね。いつなんですか?」
「それなんだけど、改修作業はここの総合車両点検センターじゃなくて、王室の専用施設でやるそうなんだ。だから、王室の方から連絡が来るそうだよ。」
なるほど、ヨネサキ所長の研究室で作業するってことかな。
「わかりました。ありがとうございます。連絡待っててみます。」
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