17話 魔法列車
さぁ、タマミちゃんが待ってる、急がなきゃ。
「小隊長、では、行きましょう!」
「了解!」
小隊長達が車内へ戻った。
車内アナウンスを流す。
「反対側のドアも開きます。ご注意下さい。」
全てのドアから軽機関銃の銃口が出て、周囲に向けた警戒態勢になった。
「よし、準備オッケーだ。お前たち、列車を死守するぞ!」 「おー!」
小隊長が一番前の席に陣取ってボクに指示を出してくれる。
「すまないが、ここから先は状況不明なので、出発信号機としては、警戒信号しか表示できないんだ。路線の説明だけしておくと、次の駅がマッキンリーウッズ、その次が終点のシルバーフォレストだ。シルバーフォレスト駅は終端駅では無く、その先に留置線があるので、間違わないようにな。とにかく、無理はするな、必ず無事に帰って来いよ。」
出発信号機の表示が警戒表示に変わった。
「ありがとう。では行きます。出発、警戒進行!」
初めての路線、運行支援のない目視での運行、全部初めての経験だらけで不安しかないけど、進まなきゃ。
そうだ、お守りがあったな。絆石を速度計の上に置いた。明子おばあちゃん、タマミちゃん、ボクを守ってね、
ガッタン、ゴットン。
いつでも止まれるように、最徐行で進み始めた。
周囲は街の中ではなく、既に森の中に入ったような感じで、線路は見通し良く真っすぐ続いていた。これなら前方視界は十分だ。特に異常はないみたいなので、警戒信号制限速度の25キロまで速度を上げた。もちろん、今は運行支援も無いので制限速度もないんだけれど、警戒と言えば25キロっていう、列車として体に染みついている習性でそうなっているだけだ。
カタン、コトン。カタン、コトン。
警戒区域で人の姿の無い森の中の1本の線路、レールのジョイント音だけが響いていて、妙な静けさがかえって不気味な雰囲気を醸し出している。
遠くに駅舎が見えて来た。あれがマッキンリーウッズ駅か。
念のため、最徐行しながらホームを通過した。
ホームにも駅舎にも誰も居ない。まさに無人駅だ。ボクは、前世最後の無人駅の光景が走馬灯のように蘇ってきた。
無人駅の雑草の生えた線路、錆びて欠けてしまった駅名標、そしてそこからの展望台、結局あの時の警笛はなんの列車だったんだろうか。
そして、列車になったボク。前世の思い出は鉄道、列車に乗ったことばかりだけど、今は乗客みんなの顔や、楽しく話したことが思い出せる。明子おばあちゃんから何度も聞かされた野菜の話、タマミちゃんの学校の先生たちの文句、そして、ものまね。ただ、ボクはタマミちゃんの学校の先生たちに会ったことが無いので、似てるのかどうかは全然わからないんだけど、とにかく面白かったんだ。そしてまた、赤い大きなバッグを背負ってカスティリア中央で大きく手を振って出かけて行った後ろ姿を思い出してしまった。そうだ、ボクは進まなきゃ。
ホームを抜けると、また警戒速度の25キロまで加速した。
左側の木々の向こうから、かすかに、今までに感じたことが無い、嫌な感じの魔力を感じるようになってきたぞ。これが魔物なのか?
右側には同じような嫌な感じの魔力が複数あるようで、何となく隠れているようにも感じる。魔物とはいっても、要するに魔力で動いてるモノなんだから、自分より大きな魔力を持つ者には攻撃して来ないってことなんじゃないだろうか、ボクも一応、魔力で動いてる魔法列車だし、魔力量だけなら、列車を走らせられる位の量があるんだから。もちろん、ボクらは攻撃したりしないんで、根本的に魔物とは違うのかもしれないけど。ま、とりあえず、攻撃して来ないなら、魔物なんて怖くないよね。
ババババババ・・・
それから5分程走ったところで、突然軽機関銃の音が響いた。
進行方向左側の木々の間から、こちらへ向かって何かが飛び出して来たんだ。うわ、小さな魔物じゃないか! マジで魔物が居るよ・・。やっぱり、本物の魔物見ちゃうとメッチャ怖いじゃないか。
「もう魔物が出没している。我々はそろそろ下車するよ。列車を止めてもらえるかい?」
「いえ、まだまだ。ボクだって魔法列車です。こんな小さな魔力量しかない魔物なんかにはやられませんよ。」
とは言ったものの、もちろん怖い。どんなに小さくたって魔物は魔物。それも初めて見る魔物だ。
こうなれば少しでも早く先に進めることだけに集中しよう。
線路の状況なんか関係ない、全力で加速だ、高速大量輸送こそが鉄道のメリットなんだ。早く、前に、前に進めるんだ。
ババババババ・・ 今度は右側から現れた魔物が軽機関銃に倒れた。
ババババババ・・ また左側に魔物。
そうは言ったものの、そろそろヤバいかも・・うわぁっ。
ぷわぁぁぁぁん。大きな警笛と共に非常ブレーキをかけた。
線路の上に大きな魔物が居る。これはデカすぎるぞ。
ババババババババババババ
列車の両側から軽機関銃が魔物に向かって発射さている。
でも、大きな魔物は軽機関銃の弾位では効かないようで、軽機関銃の弾を虫でも払うかのように軽く手を振っているだけで、まったくびくともしていない。
ここまでか・・小隊長に、運行終了を伝えなきゃ。くそっ、せめてもう少し進みたかったけど・・。
「小隊長、残念ですが、ボクはここまで・・」
話始めたその時。
パキッ。
え?何の音? あぁっ、絆石が割れた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます