16話 制限区域

 ガッタン、ゴトゴトン。


ポイントを渡って初めての線路に入る。あまり使われないポイントのようで、列車が大きく揺れる。5つ目のポイントを渡り終わったところで、確かに、その先にポイントは無くなっていて、まっすぐ線路が伸びていた。信号機の標識にはシルバーフォレスト線と書かれている。ついにシルバーフォレスト線に軍用列車の先陣として乗り込んだんだな。後は信号機を信じて、全力、全速で走るだけだ。


100キロ到達、ここからは魔法量を増やしながら・・150キロ到達。

待っててよ、タマミちゃん! 

初めて走るシルバーフォレスト線はクラクトン線と雰囲気が違って列車としてはじっくり見てみたい気持ちがあるのだが、今は単なる列車じゃなくて、軍用列車、とにかく到着時間を一分一秒でも早めることこそが重要任務だ。景色は我慢して全力で走り続ける。


150キロを保ったまま、約1時間ちょっと走り続けたところで、信号機の表示が減速に変わった。速度を落として10分程走ると、次の駅が見えてきた。出発信号機は停止を表示している。

あれ?まだ終点のシルバーフォレスト駅じゃないはずなんだけどな。

信号機の指示通りに列車を停車させた。駅名標を見ると、マークプレインと書かれている。


駅長と少し色の違う王国軍服を来た人がやってきた。列車からも2人、王国軍の人が降りて、こちらへ駆けてきて、軍服の人に敬礼をした。たぶん、この2人がクラクトン小隊の小隊長たちなんだろうな。


「リブル将軍閣下、クラクトン基地、第一、第二小隊、到着致しました!」


「ご苦労様、想定以上に早い到着だったね。一刻も早く戦力を投入したいので助かるよ。」


ホームで待っていた軍服の人がそう言って敬礼を返した。そうか、この、少し色の違う制服が王国軍、将軍の軍服なんだな。


将軍がボクの方を振り返って話を続けた。

「ところで、この次の次の駅が終点のシルバーフォレストなのだが、魔物の出現に伴って、ここから先は住民の避難も終わった制限区域として立入禁止エリアになってしまったんだ。そして駅員を含む鉄道関係者も全員退避しているので、ここから先は運行をバックアップすることが出来なくなった。よって、貴君の任務はここまでで完了だ。ご苦労様でした。」


被害エリアが広がってきているのか。もう少しでタマミちゃんが居るかもしれないのに、悔しいな。


「ところで駅長さん、次の軍用列車の到着予定はどうなっているのかね?」

将軍は駅長と話をはじめた。


「次の軍用列車は、先ほどカスティリア中央を出発したと連絡がありました。よって、到着は後2時間後位を予定になります。この列車だけが想定以上に早かっただけで、他はほぼ予定通りの運行ではあります。クラクトンから休憩なく走り続けて、それも特急運行だとしてもこんな時間では到着しないはずです。この列車がどれだけ無理をして走ってきてくれたのかは、この結果だけで十分にわかります。」


「そうだったのか。改めて感謝する。せっかくの貴君の協力を無駄にしないよう、クラクトン小隊だけでも先兵隊として作戦を開始させて頂くよ。監禁されているのは学生さんたちだから、疲労もストレスも既に限界だろう。とにかく今回の作戦はスピード勝負なんだ。」


そうだよな。行方不明になって既に6日目。タマミちゃん、辛いよな、怖いよな。ふいに、明子おばあちゃんと楽しそうにキャンプの話をしていたタマミちゃんの姿、大きな赤いバッグを背負ったタマミちゃんの姿、カスティリア中央で大きく手を振って出かけて行った後ろ姿、いろんなタマミちゃんの姿が思い出された。助けなきゃ、ボクが助けなきゃ・・


「あの・・ 駅長さん、出発信号機さん。ボクがこのまま小隊の皆さんを乗せて、線路上に魔物が無いことを目視で確認しながら、シルバーフォレスト駅の方へ行けるところまで運行することは出来ませんか?」


「えぇっ?何を言ってるんだ?この先には魔物が居るんだぞ。」

駅長が驚いてボクを見た。


「わかってます。でも、捕まってる学生さんたちの中に、クラクトン・シーの女の子が居るんです。ボクたちの乗客なんです。そして友達なんです。だから、出来ることをしたいんです。」


将軍がボクと駅長を見て話に割って入った。

「そりゃ、今は戦力投入のスピードが勝負なんだが、軍のトラックもまだ到着していなくて、全ての武器を運ぶことは出来ない状態だ。兵士と武器を可能な限り魔物の近くへ移動できるのであれば、こちらとしては大助かりだが・・駅長さん、どうかね?」


「なるほど、確かに、捕まっているのは我々の乗客だね。鉄道は乗客を守ることも重要な使命だし、王国民の安全を守るのも王国鉄道の使命だ。君の判断に任せるよ。ただし、無理だけはしないことを約束してくれ。列車あっての鉄道なんだからね。」


「ありがとぅございます。それでは小隊長さん、ここから先、ボクは前方警戒で手一杯になるので、ドアを開けて運行しますから、周囲の警戒をお願いできませんか?」


「了解した。周囲の警戒は任せてくれ。もちろんこの列車には指一本触れさせないさ。」

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