孤独の立ち読み。

かなたろー

M市商店街の古本屋

 その本屋は、普段歩かない町の商店街の裏路地にひっそりとあった。

 もう数十年以上、時代から取り残されたような木造の小さな平屋。


 前を通ると古い本のどくどくの埃っぽく日に焼けたようなにおい。

 私の好きなにおいだ。


 私の趣味は古本屋めぐりだ。けれどブック〇フのようなチェーン店ではない。まるで時代に取り残されたような、ひっそりと佇む古本屋をめぐることだ。

 そんな古本屋で古い雑誌を購入する。昭和に取り残された佇まいの店で、当時の最先端の雑誌を購入する。


 そうすることで、デジタルな情報にあふれかえった疲れ切った令和の時代から、ほんの少しだけ心を切り離し、元気だったと聞かされる高度経済成長期からバブル期まで、セピア色に輝いた時代へと逃避を行うのだ。


「お、こいつはすごい」


 私は東京オリンピックが開催されたときの雑誌を手に取った。

 1964年、高度経済成長期まっさかりに行われた最初の東京オリンピックが開催されたときの週刊誌だ。値段は100円とある。


 私は雑誌をぺらぺらとめくる。


 すると『薄氷の上の新幹線』という記事が目に留まった。

 内容は、東京オリンピック開催すれすれに開通した『東京⇄大阪』間の東海道新海線の開通を、揶揄するものだった。


 国をあげてのビックプロジェクトが、オリンピックまでに間に合ったことを喜ぶのではなく、スケジュールが遅延したことをチクリチクリと嫌味たらしくねちっこい文章で延々とつづられてある。


 日本人の減点主義は、今も昔もかわっていないらしい。

 アマ〇ンレビューの平均点が日本人は極端に低いことは有名だ。


 私はその雑誌を購入しようと雑誌の裏を見た。500円とある。

 私は少し考えた後、結局その雑誌を買わずにその古本屋を後にした。

 2019年、来年、東京オリンピックがつつがなく開催され、経済を潤すと皮算用をしていたころの話だ。


 あの古本屋、今もまだあるのだろうか。

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