紙の匂いが好きなので本屋に居座ってみる(陰キャのサイドストーリー)

136君

紙の匂いが好きなので本屋に居座ってみる

 『母をたずねて三千里』というアニメがあるが、私の場合は『紙を求めて三千里』だと思う。


 私、船戸花胡は紙の匂いが大好きだ。特にインクと混ざっているものが。それは『LOVE』なんかでは済まない。おそらく『狂愛』とか、それ以上。もしも紙の匂いと恋人になれたらなんて思うことがある。まぁ、そんなこんなで彼氏いない歴16年なのだが。


 そういうことで、今日は梅田にある大きな本屋に行ってみようと思う。梅田にはもう何回も来ているのだが、どこに何があるとか覚えられない。それでも、紙の匂いがする方に歩いていったらそこには本屋があるのだが、今回行こうと思うのは駅の外にある店舗。私の鼻はあまり効かないと思う。知らんけど。


「あの…阪急百貨店に行きたいんですけど。」


少し迷いかけていたら、おば様に話しかけられた。香水の匂いで鼻が曲がりそうだ。


「阪急百貨店なら、ムービングウォークを行った先にあると思います。」

「そうですか、ありがとうございます。」


そう言って、おば様は人混みの中に消えていった。


 さてと、ここから外に出て線路沿いを歩いていったら着くんだっけ。


 外に出て、ほぼ歩行者天国と化している道を歩く。やっぱり人が多いな。人の匂いでこちらもキョーレツ。


 あれっ?屋内から紙の匂いが少しするぞ!行ってみよう!


 吸い込まれるように辿り着いたのはそこら辺にいっぱいある書店だった。入口の前に立つと少し思うことがあった。


 私、行こうとしてたのここじゃないぞ。ここに行ったら本屋と浮気?いや、紙を求めてだから浮気ではないか。でも、ここに入ったら私の本当の目的は果たされないままになってしまう。じゃあ、私は目的を果たすためにあの人混みの中に入っていく必要はあるのか。いや、その必要は無い。紙とインクを目の前にして、あんな臭い匂いを嗅ぐ必要は無い!


 私は1歩踏み出した。


「髪の匂いだぁ〜!ぐへへ〜!!!」

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