【KAC20231】和風女子とチャラ寄りのチャラ男子と、本屋さん
マクスウェルの仔猫
第1話 和風女子とチャラ寄りのチャラ男子と、本屋さん
バレンタインが終わり、道行く人々に大勢のカップルが追加されていちゃラブ度が増している、とある郊外の駅で。
少ししょんぼり顔をした制服姿の女子が、とてとて、と改札を抜け、すっかり陽の落ちた夕方の景色を背景に、隣接した駅ビルへ向かっていく。
(今日、本屋さんにあの人、いないかなあ。元気になりたい。元気が欲しい)
腰までの黒髪をサラサラと揺らし、背筋を伸ばして視線だけを通路に向けながら歩く
女子にしては高い168センチの身長と黒ぶち眼鏡が
(朝の占いは悪くなかったのに……今日は授業中に何度も『円城!起きてる?』って言われて『起きてますよ?!』とか返事したら、他の先生も面白がって私を御指名するし……授業中寝た事ないでしょうにー!)
眉毛をㇵの字にして、ふんむむう、と目を閉じた華から溜め息が漏れる。
(こんな時は、心に潤いが必要だよ。君の姿が見れればきっと私も元気になれる気がするよ。リア充のいちゃラブさん達も気にならないくらい元気になるよ、きっと)
気になるなら、バレンタインのチョコを上げてきっかけを作ればいいようなものだが、見かけてから2ヶ月も経っていないのにチョコなど渡せるはずもない。
そもそもが、参考書を買おうとした華が床に財布をカーリングの様に滑らせたのを拾ってくれたのがこの男子であった、というだけの話である。
その男子が自分より身長が高く、明るい金髪に着崩した制服、という一見チャラい感じにしては、深く、透明感のある瞳と微かにほほ笑んだ表情が気になった華。
それ以来その書店を帰り道のルートに加えた華は、恋愛判定をすればラブ寄りのラブ、片想いになりかけているキモチ、である事に気づいていない。
会えたらラッキー!元気が出ちゃうレアキャラな存在。
華はそう考えていたが、姿を見るだけで元気になれそうな存在が、ただの友達か顔見知り、で済むはずがない。
華は、それを思い知る出来事と遭遇する羽目となる。
●
駅ビルの三階フロアにたどり着いた華は、この三階の半分の面積を占める書店の、参考書や小説といったコーナーを回っていく。
すると。
参考書コーナーでお目当ての男子を見かけた華は小躍りした。
(いた!今日はまた参考書コーナー!うーん、カッコいいよね……。やはり、見た目と雰囲気のギャップがヤバいのう、お主は……ぬっはっはっは)
喜びのあまりに、時代劇で見たような悪代官の台詞回しを自分がしている事に気づいていない華は、今日もできるだけ近寄るべく、まずは男子と同じ棚を向き、じり、じり、とカニ歩きで近寄っては倍遠ざかり……を繰り返す。
(うう、遠ざかっている気がしないでもない……近寄りたいんだってば、え?!)
もじもじモヤモヤとする華。
そこに。
「お待たせ!遅くなってごめんねー!」
「ほんと、遅すぎだろ。それにタイミング悪すぎ」
目指す男子に、ゆるフワ茶髪の小っちゃ可愛い制服女子が近づいていき、可愛らしいリボンのついた紙袋を手渡している。
(お、終わった……)
華はこっそりと、その場を離れた。
●
倒す相手が見つけられないホラー映画のゾンビの様に。
棚の本を眺めてはブラブラと遠ざかる、を繰り返す華。
(は、ははは。今まで、たまたま彼女さんと鉢合わせしなかったか、バレンタインでめでたくカップル誕生したか。どっちにしても、私には関係ない話だった……最後の元気が抜けて、いくよ……)
二人と鉢合わせしたくない。
そして憧れの男子のいちゃラブを見たくないが為にゆらゆらと二人がいた場所からゆっくりと離れていった華は、フロアの隅に階段を見つけた。
(ひっそりこそこそ、帰ろう……)
華は体をよろり、ふらりと階段に向かわせた。
そこに。
「あ、あの……大丈夫?具合悪そうだけど」
背中から聞こえた声に、ゆっくりと振り返る。
そこには。
ときめき男子と、ゆるフワ彼女が華を見つめていた。
「じゃあ私、先に向かってるね!」
「ああ」
心配そうに見つめる男子と、走っていくゆるフワ女子。
(このシチュで、私に何をしろと言うのでしょうか……)
呆然と立ち尽くす華であった。
【続く】
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