異世界書店777

華川とうふ

本屋の店主は神様です

「やあ、いらっしゃい」


 そこは本屋というより、喫茶店という雰囲気があっていた。

 店主の趣味で営まれている店構え。

「いらっしゃいませ」なんてかしこまった言葉は似合わない。

 ただ、ここが好きな人、ここが必要な人がふらりとやってくる店。


「なにを探しに来たんだい?」


 店主に声をかけられて驚く。

 こんな店は客を放っておいてくれるものだと思っていたから。

 だけれど、店主はすごく若い見た目の癖に、しゃべり方はどこか年より臭かった。


「ここじゃない、どこかに行きたい」


 思わずそんな言葉がこぼれた。

 そうだ、仕事にいかなければいけないのに。

 今日は仕事にいくことができなかった。

 ふらふらとさまよっているうちに、ここにたどり着いたんだった。


「いいね。どんな世界がいい?」

「なんか平和なところがいいな、みんなが笑顔で暮らせるような」

「それはちょっと難しいな。そういう世界は安定しているから外に扉が開かれていないんだ」


 店主はケチなことを言う。たかが、本くらい好きに読ませてくれればいいのに。

 まあ、確かに物語としては平和なのはつまらないか。


「じゃあ、これから平和になるかもしれない世界は?」

「それならたくさんある。英雄や勇者を待ち望んでいる世界はたくさんあるんだ」

「勇者か。子供のころ憧れたな」

「いいね。どんな勇者がいい?」

「どんな勇者っていっても、普通にさ。剣で戦って人々を守る強い勇者さ」

「オッケー、オーソドックスなやつね。一応、剣も物理だけじゃ心もとないから魔力も付与しておく」

「ああ、いいね。旅をして。ああ、野宿をしても体がいたくならないってあれはきっと若さなのかな」

 俺は旅の勇者の過酷さを想像して眉を顰めると同時に、子供の頃は疲れを感じなかったなと懐かしく思った。

「わかった。若返りと健康な体もつけておく。それじゃあ、行ってらっしゃい」


 そう言って、店主が扉を開くとそこは異世界だった。

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異世界書店777 華川とうふ @hayakawa5

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