立ち読み
キザなRye
第1話
「ここで立ち読みしないでください」
高い声の店員さんに僕は注意された。両手は雑誌を持っていて目の前には本でびっしりの棚、そして後ろには注意してきたであろう人の気配。僕が後ろを向くことは必然だった。後ろを振り向くとそこには僕よりも年下と思われる20歳そこらの女性がいた。どこか圧力みたいなものを感じて雑誌をゆっくりと元あった位置に戻した。
「読みたいなら買ってください」
彼女の言うことは何も間違っていない。ただ僕には雑誌を買えるだけのお金がなかった。肩を落として店を出ようとしたときに
「これを持ってレジに来てください」
と先程僕が読んでいた雑誌を彼女が渡してきた。お金を持っていないから買えないと口に出そうとしたところで彼女はレジの方へ行ってしまった。買う目的ではなくて買えないということを伝えないといけないなと僕はレジで僕のことを待っているであろう店員さんに言いに行った。
レジに僕が行くと彼女はバックヤードから千円札を持って出てきた。彼女が何をしたいのか僕には理解が出来なかった。彼女が入ったレジのところに僕は雑誌を持っていくと僕が喋り出す前に雑誌を手に取って値段の読み込みを始めた。僕は払えないのにどうしようと態度には出していないが、内心焦っていた。
「私が払うんで大丈夫です」
僕にしか聞こえないくらいの小さな声で彼女は言った。僕が何かを出来ることなくお会計まで済まされてしまって雑誌を持って帰ることしか僕に残された手段はなかった。
彼女に対する申し訳無さがあったので雑誌を受け取る前に彼女と会話ができる最低限の声量で僕は
「なんでこんなことしてくれるんですか」
と聞いた。彼女はニコッと笑ってから
「ずっと見ててかっこいいなと思っていたので」
と言った。僕は彼女のその言葉に心を奪われてしまった。
「今日のシフト終わるのであと10分くらい待っててください」
店の前で彼女に言われた通りに待っているとおしゃれという言葉で片付ける他ないような私服を纏って彼女が出てきた。
「カフェに行ってお話しましょう」
彼女の言葉によってどんどん彼女に飲み込まれていく僕がいたが、それも嬉しかった。
彼女に言われるがままにカフェに行き、僕についてを話し彼女についてを聞き、連絡先を交換して連絡をするようになった。電話をしたりメッセージを送ったり毎日のように彼女とは連絡を取っていた。
気付いた頃には彼女のものに僕はなっていた。気付いた頃には彼女の色に僕は染まっていた。彼女の操り人形になっていた。
立ち読み キザなRye @yosukew1616
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