【カクヨム誕生祭2023】魔法のランプと本屋さん
碧空
ランプの精霊と本屋さん
「アイシャ〜今日も全然お客が来ないな〜」
アラブ風の、しかし落ち着いた雰囲気の店内に響く、やや高めの退屈そうな少年の声。
「そうだねえ」
それに対し、どこか気の抜けたようなおっとりとした声が返される。
「おーい暇だよ〜アイシャ〜〜」
「うんうん」
「なあ〜…」
「うんうん」
「………今日は人が多いねえ〜(棒)」
「うんうん」
少年の脳内で、ブチッと何かが千切れた音が聞こえた。
「話聞いてないだろアイシャァァァァ!!!!」
「うわああああ!??!」
余りにも気のない返事にキレたらしい少年が、大声でアイシャという者の名前を呼び怒鳴った。
ドタっと何かが落ちた音と共にガシャーンと鳴り響く何かが割れる音。
どうも椅子から落ちたらしい女性の顔には、ガーンという擬音語が似合いそうな表情が浮かんでいた。
「ああぁ…このカップ大事にしてたのにぃ…」
突然の大声に対して盛大な
「ううっ…でも流石に今のはアイシャが無視するから悪いんだぞ!」
一方罪悪感があるのか顔を女性から背けているが、少しムスッとした顔でカウンターの中でランプを磨いている、まだ幼く見える少年。
「うう…うう…せっかくなけなしのお金叩いて買ったのに……」
女性はほろほろと涙をこぼす。本気で悲しんでいるようだ。
「うぐっ…この間一目惚れしたとか言ってたやつかよ…。ああもう!いざとなったら俺が同じの出せるしそこまで落ち込む必要ないだろ!」
根はいい子なのだろう、困ったような顔をして頭を掻きながら少年は言う。
「ほ、ほんと!?いや、でも流石に悪いし…」
一瞬顔を明るくさせた女性はハッとしたような顔を浮かべ、すぐ落ち込んだ雰囲気に戻る。感情がコロコロと変化する様子が可愛らしい。
「ああもう、悪いと思うなら少しはこの店の宣伝しろよ。このままだと俺暇で溶けちまうよ。」
少年は面倒だ、というように再び手をランプ磨きに戻してため息をつく。
「で、でもそういうのはチョット…。」
少年はピタリと手の動きを止めると、ギロリと女性を睨み、ビシッとカップの残骸があった所に指を刺した。
「カップ買うだけで瀕死のやつが何言ってんだ!俺様を拾って『友達になろう♪願いはそれだけ』とか言ってたくせにろくな生活してねえじゃねえか!!このままじゃ生きることすら危ういのはお前だろう?!願い使って生活できるようにするか自分で
「うわああんごめんなさいいいい」
カランカラン
半泣きのシンプルな紺色のワンピースを着た丸メガネのやや小柄な女性 アイシャ。魔法のランプに封じられていた緑のターバンを巻いたジンの少年、サバタ。
2人が暮らすのはいつも閑古鳥が鳴いている【
「「いらっしゃいませー」」
どんだけ怒っていようが泣いていようが、お客様は神様です。2人は即座に店員モードに切り替えご挨拶。
「こんにちは、本日はどのような物語をお求めでしょうか」
「俺様たちが必ず見つけてやるよ。」
「あ、あの実は…今日は私が幼い頃に母に読んでもらった童話を探しておりまして…」
おどおどとした様子で2人に伝える庶民服を着込んだ小奇麗な女の子。
どうやら今日は2人とも、久しぶりに腕がなりそうです。
【カクヨム誕生祭2023】魔法のランプと本屋さん 碧空 @aon_blue
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