マラソン少年

雨語入門

第1話


 両親は肉屋だった。父さんと母さんが店で働くのを見ていると格好いいと思った。

 駅から離れたところにある店だった。駅前のスーパーとか大型ショッピングセンターにお客さんが流れてしまうので、商売は楽ではなかった。でも頑張っている両親を見ると自分もあのような大人になりたいと思った。

 夕食の時のこと。

「大人になったら、この店を継ぎたい」

 小学校5年生の僕は父さんに言った。

「経営が厳しい店だからお前に苦労させるわけにはいかない。だから、お前にはこの店を継がせられない」

 見たことがないぐらい父さんは怖い顔をした。いつも格好のよい父さんが、なぜ怖い父さんになってしまうのか、理由が分からなかった。

 僕は台所にいる母さんを見た。母さんは困ったような顔をしていたが、僕と目が合うと少し寂しそうに作り笑いをした。

 あの頃、僕はまだ大人の気持ちが分かっていなかったのだと思う。


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