第52話 裁き

 白い玉砂利の敷かれた庭に不釣り合いな、みすぼらしいむしろが一枚敷かれている。


 血濡れた忍び装束を着替え、罪人の身につける浅葱色の着物を纏ったお涼と猿が、後ろ手に縄をかけられてむしろに引き立てられて来た。


 促されるまま座する二人は取り乱した様子もなく静かに顔を伏し、大きく開かれた座敷の下手には、侍の姿をした三人が控えている。


 それは猿と共に憂ノ国の援軍を殲滅した藤二と義兵、そして脇腹に銃弾を受けつつも一命をとりとめた弥助であった。


 阿ノ国城主忠親ただちかのお出ましに、一同平伏して動きを止める。


「面を上げぃ」


 老中の声に体を起こしながら、お涼はただ一つのことだけを考えていた。


(最期に一目……五平様にお会いしたかった)


 だが、巻物を城から盗みだし、国家転覆の危機を招いた大罪人を妻としていたと知られれば、五平にもとがが及ぶであろう。

 お涼は老中の長い長い罪状読み上げをぼんやりと耳に流しながら、五平と過ごした穏やかな日々に思いを馳せていた。


「……以上、相違ないか?」


 老中の言葉にお涼はふと我に返ると、そっと目を閉じしめやかに口にした。

「相違ございません」

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