第31話

 あやめは鬼八に生きる術を教えた。

 貧しい農家の倅であった鬼八だが、身体能力は抜群に高かった。

 あやめに教えられる技を次々と習得し、あっという間に筆頭若衆に抜擢された。

「すごいじゃないか、鬼八!!」

 満面の笑顔で褒めてくれるあやめに、鬼八はよく懐いた。


(あやめ様に褒められたい、認められたい)

 そんな鬼八の思いは、より一層彼の潜在能力を引き出した。

 その結果、鬼八はわずか三年で上忍の免状を取得した。


 上忍に上がった鬼八は、勝手に佐吉を里に連れてきて隠密のノウハウを仕込み、自分の影とした。

 里の決まりを軽視する行動だと古い連中は鬼八を責め立てたが、鬼八は一切動じない。

 このような身勝手な行動から、鬼八は徐々に戸隠の里の重鎮らに煙たがられる存在となっていった。


 鬼八が里に来て五年、小康状態だった戦況が大きく動いた。

 宗兵衛の活躍で、呂ノ国に攻め入ろうとした破ノ国は敗走の憂き目を見た。

 懲りてか懲りずか破ノ国は、呂ノ国への足掛かりとして、手始めに伊ノ国へ攻めいったのだ。

 伊ノ国が落ちれば勢いに乗った破ノ国の軍勢が呂ノ国へとなだれ込む。呂ノ国から戸隠の里へと伝令が走った。


「破ノ国の軍勢を削ぎ、伊ノ国陥落を阻止することが此度の依頼」

 国命のかかった大きな依頼、総指揮を務められる者は宗兵衛しかいなかった。


 出征の忍が選抜され告示が出されると、宗兵衛の屋敷にあやめは飛び込んだ。

「何故私の名前がないのです!?お連れください。必ずやお役に立ってみせます!」


 宗兵衛はゆっくりと首を横に振った。

「ならぬ。そなたにはお涼を立派に育てる大任がある。

 ……後のことを頼む」


 その言葉に、宗兵衛が死を覚悟していることが読み取れた。

 あやめはギリッと唇を噛んで宗兵衛の屋敷を飛び出した。



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