第29話 あやめの生涯

 あやめは戸隠の里で生まれ育った。

 何代にも渡り、忍として里に住まう一族の生まれであったあやめは、幼い頃から並外れた才覚を現していた。

 同世代の子供たちが修行を始める頃、あやめは、大人たちに混じって任務をこなしていた。


 あやめが齢十五の年、呂ノ国の偵察任務を命じられた。

 この作戦の責任者は、最年少で上忍試験に受かった、若干二十歳の宗兵衛であった。

 難しい任務を難なくこなし、里に戻った若い二人は、互いにその力を認め合い、惹かれ合っていった。


 宗兵衛が二十五歳の時、突如戸隠の里長が急死した。

 暗殺されたとも心ノ臓の病とも言われたが、真偽は分からぬままに、次期里長選びの火蓋が切って落とされた。


 世襲制を重んじる長老たちは前任里長の長男、疾風はやてを推した。

 しかし、実績のない疾風に里長など務まらぬという意見は多く、対抗馬として宗兵衛に白羽の矢が立った。


 戸隠の里を大きく二分して内輪揉めは長期化した。

 仮長の座についた宗兵衛の周辺は、俄然きな臭くなった。


 あやめの身を案じた宗兵衛は、長期任務と称して、あやめを里外に逃がした。

 あやめの影であった猿も、このときあやめの護衛に付いて共に里を去った。


 反対派を制圧し、戸隠の里を掌握するのに丸五年の歳月がかかった。


 世は戦乱期に差し掛かった頃だったが、戸隠の内乱はあっけない幕引きとなった。


 呂ノ国から依頼を受けて破ノ国に出向いていた疾風はやてが討ち死にしたのだ。

 仮長かりおさの立場から「仮」を外す形で里長となった宗兵衛は、そのまま里を束ねて何とか呂ノ国の依頼を成し遂げた。


 劣勢だった呂ノ国は宗兵衛の援護を受けて盛り返し、破ノ国の侵略を食い止めた。

 

 この功績で反対派も宗兵衛を支持せざるを得なくなった。

 内乱の終結を迎えた宗兵衛は、あやめを里に呼び戻した。




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