第34話 調査対象
「やはり味方に付いている、奏呪から漏れた呪術師の仕業か」
「そこを疑う必要はないだろう。実際に呪術を用いられているんだから」
奏翼の呟きに、奏刃は今更何を言っているんだと顔を顰める。しかし、奏翼の顔は真剣そのものだ。
「何か引っ掛かるのか」
「引っ掛かるのはこの事件の総てだよ。一体どう考えるべきなのか、すっきりと道筋が見えないことばかりだ」
「まあな」
奏刃はそれに同意するように頷いたが、今は検証が先だと奏翼の腕を引っ張って別の場所に移動するのだった。
頭を抱えているのは奏呪や鈴華だけではない。この国の頂点たる龍統も、どう対処すべきかで頭を悩ませていた。
「今のところ、税収に支障が出るほどの被害ではありません。しかし、田畑を耕す農民が呪術に晒されているとなれば、いずれ大きな問題になりましょう」
報告をしてくる
「一層のこと、あの奏翼を始末しては如何ですか?」
「ほう。お前も奏翼が呪ったのではと考えるくちか」
「あの、いえ、はい」
自分から言い出して否定するのはおかしいと、郭耕生は難しい顔をしながらも頷いた。やはり、多くの官吏は奏翼を疑っているというわけだ。
「その必要はない。奏翼は今や奏刃の完全なる配下だ。もしも奴がこの呪いを起こしているのならば、奏刃が容赦なく始末する」
「恐れながら、奏刃は奏翼と長い時間をともにしています。情けを掛けているということは」
「ないな。呪術師ほど恐ろしい生き物はなく、また情けで動く連中ではない。そして、それは強い呪術師ほど顕著だ。奏呪を作り上げた時、俺はそれを嫌というほど見ている」
龍統は奏呪を作り上げた張本人だ。そして呪術師を従わせた唯一の人でもある。その人の言を疑うのは馬鹿げた行為だ。
「やはり、人の心は持ち合わせておらぬものですか?」
しかし、興味を惹かれてつい訊ねてしまう。
「そうだな。肉親を殺すなんて当たり前のような連中だ」
それに、龍統はふっと笑って答える。奏翼のいた月家の泥沼を思い出せば、奏翼が素直に奏呪に戻ったことは喜ばしいことであり、疑うなんて馬鹿らしくなる。
「解りました。奏翼がこの件を起こしたとは考えませぬ」
多くを語らない皇帝の反応で、よほどのことがあったのだろうと察した郭耕生は、出過ぎた意見だったと頭を下げる。
「それでよい。取り敢えず、農村の状況ももう少し詳しく調べてくれ。それと、都市部の状況だな。どうやら地方官吏どもがサボっているらしい。引き締めておいてくれ」
「了解しました」
郭耕生はすぐに調査団を編成すべく下がっていく。それを見ながら
「奏呪が犯人を見つけるのはまだまだ先か」
と溜め息を吐いていたのだった。
龍河国の氏族は、皇帝一族の龍家を除くと、最大は虎家になる。しかし、この虎家は鈴華の家であり、この間からあれこれ引っ掻き回してくれているので、今回の調査からは一先ず除外することになる。
それと同時に、虎家のように奏翼が直接呪術を施している
「この三つを除くと、調べるべき氏族はどれくらいになる?」
血液の採取を命じられた奏金は、一緒に動くことになった
「早急に確認すべきという点に絞るのならば、
それに奏剛が答える。横に控える奏岩も大きく頷いた。
「六つか。まあ、妥当なところだな。行くか」
「はい」
こうして奏呪の地道な調査が幕を開けた。
「ダニを百匹って意外と難しいな。っていうか、百ってざっくりでいいよな」
その頃、奏金の双子の弟・奏銀は、キョンシーもどきが出た町に赴き、ダニの回収に汗を流していた。しかし、地味な作業の上にうっかりすると殺してしまうダニを相手に苦労させられる。
「多めに取ってこいって意味だと思いますね」
そんな奏銀を手伝って一緒にダニを集める
「まあ、奏刃様は適当なところがあるからなあ。きっちり百取って帰ったところで、確認はしないだろうし、ざっくり百でいいか。どちらかと言えば、奏翼様のほうがきっちりしているんだよね」
奏銀はダニを拾いつつ、あの二人は対照的だからなとぼやく。
「だから、以前までは奏翼様が長官だったわけですね」
「まあね。とはいえ、無慈悲なのも奏翼様だけど。大乱の時に長官だったってのは、それだけ多く殺しているわけだよ。そして誰に対しても冷たい」
「まあ、そうじゃなければ、十年も雲隠れしてないですよね」
「だろ。同僚だろうと何も思っていないんだよね。あの人の場合、周囲にいるのは今殺す相手がそうでないか、くらいの判断だろ」
と、地味な作業のせいか、上司への愚痴が止まらない二人だ。しかもダニを大量に革袋に突っ込んでいくというのは、ちょっと嫌な仕事でもある。
「誰だよ、ダニを利用しようなんて考えた奴」
おかげで最終的に愚痴は犯人へと向くことになるのだった。
「お呼びでしょうか」
「ああ、奏翼。もっと近う寄れ」
さて、きっちりしていて無慈悲と評される奏翼は、龍統に呼ばれていた。しかも場所は後宮だ。嫌がらせかなと思わなくもない。ここは鈴華と別れた場所でもあるのだ。
だが、今いるのは鈴華が泊まっていた殿舎ではない。正妃・
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