学校の七百七十七不思議
秋嶋七月
第0話 最初の報告
「よいしょっ…と」
最後の調味料を棚に並べて、私は新居のキッチンを見渡した。
引越しから二日。
なんとか今日から自炊ができそうだ。
夫の仕事は新規店舗の開店準備と開店支援。
いわゆるオープニング専門スタッフという奴だ。
所属は本社ではあるものの、約半年ごとに転勤を繰り返している。
私は夫について行き、基本専業主婦として夫を支える形になる。
私は色々な土地に行くのも好きなので、半分長期滞在旅行のつもりで根無草暮らしを楽しんでいる。
けれど小学生の息子に転校を強いるのは申し訳なくも思っていた。
小学校一年生までは単身赴任もしていたのだが、色々問題が起き、一家で引越すようになったのだ。
最初、幼稚園から小学校まで一緒だった友達と離れることになった息子は泣いていたが、子供の適応力というのか、そういう性質だったのか。
息子は存外たくましく、小学三年生くらいから一つの趣味を見つけていた。
それは転校先の各学校の、七不思議を集めること。
転校したてで周囲と話すことなく過ごしていた息子はスマホをいじって暇をつぶすことが多く、ある日見た動画からオカルトに興味を持ったらしい。
連絡用にと持たせたスマホにはもちろんフィルタリングはかけていたので、エログロ方面は避けているはずだが、文字で書かれた体験談などは簡単に拾えてしまう昨今。
息子は少し不思議で怖い話に心惹かれ、SNSや掲示板などで同好の士を見つけ、オカルトについての造詣を深めていったようだ。
今では転校の多さを活かして、各地の学校の七不思議を集め、仲間に報告することを楽しんでいるようだ。
小学校五年生になった今では学校遍歴も七校目。
昨日、息子と共に挨拶と手続きに行った七坂小学校は、ごくごく普通の学校に見えた。
校舎は築十数年の白い建物だったが、学校の歴史は戦前にまで遡れると言う。
とはいえ、建物の老朽化や少子化に伴う縮小などで、当時の面影などはないようだったが。
でも古いということは、きっとひっそり語り継がれている怪談も多いに違いない。
ひょっとしたら、早速ひとつやふたつ、七不思議を聞いてくるんじゃないかしら?
そんなふうに思いながら、台所に続いてリビングを整えていると、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいまー」
「おかえりなさい。学校、どうだった?」
そう声をかけると、息子は何とも言えない表情になる。
むむ、と眉根を寄せて言葉を探し、そうして困惑しきった声でこう言った。
「お母さん、ここの学校、七百七十七不思議があるんだって」
「多すぎない!?」
「だよねぇ」
息子はとりあえずランドセルを下ろすと、冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注いだ。
「今までも七不思議のはずが集めていったら十個以上とかはあったけど」
三桁はありすぎる……と呟くのに、そうよねぇと同意する。
「それだけあったら、重複してるとか数え間違いとかありそう」
「っていうか、本当に七百七十七個、確認してる人いるのかな?」
ようは、たくさん、という意味なのかも?
八百万の神様、なんてのも実際にカウントされている訳じゃない。
「でも、とにかく多いのは確かみたい。今日だけで五つかな?聞いたから」
初日で五つ出てきたというのは、確かにすごい。
報告するための覚え書きノートを取り出して、息子は読み上げる。
「特定の日に数が増える階段、四時二分に見ると自分の死ぬところが見える鏡、勝手に鳴り出すピアノ、チョークを出して帰ると翌朝半分に折れてる黒板」
そこでふっと顔をあげ、息子は私を見た。
「でも一番最初に報告する不思議は【七百七十七不思議があること】、かな」
1、七百七十七ある七不思議
2、特定の日に数が増える階段
3、四時二分に見ると自分の死ぬところが見える鏡
4、勝手に鳴り出すピアノ
5、チョークを出して帰ると翌朝半分に折れてる黒板
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます