第29話 従姉妹と、本当の想い
*
わたしは、ただ、蒼生を待つことしかできないのだろうか。
蒼生が一糸学院に入学して……いや、わたしたちの家で暮らすことを知ったとき、戸惑ってしまった。
数年ぶりに再会することに、すごく緊張してしまって、蒼生が来る日になって、わたしは逃げ出してしまった。
蒼生のためにケーキを買うと家族には言ったけど、本当は会うのが怖かった。
会って、蒼生に拒絶されてしまうのではないかと恐れていたのだ。
だから逃げた。
蒼生に会ったらどうなるかわからないと思ってしまった。
わたしは自分の感情に素直になりすぎるところと臆病になりすぎるところが、零と百ぐらいに極端になりすぎるところがある。
そんな性格が災いして、はっきりしない態度を示していたので、咲茉と葵結に先を越されてしまいそうに今、なっている。
この今をわたしは変えることができるのだろうか。
わたしたちは従兄妹だ。
血がつながっている。
それは確かな事実だ。
そして、それ以上に今は家族でもある。
だけど、蒼生が誰かと結ばれる想像なんてしたくない。
蒼生と離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
でも、その気持ちを伝えたところで、蒼生に迷惑をかけてしまうだろう。
それに、わたしも蒼生も、まだ高校生活が始まったばかりだ。
この先の未来も蒼生と一緒に過ごしていきたいけど……蒼生も同じことを思っていてくれているのだろうか。
それを聞いてみたい。
でも、怖い。
また、逃げ出せば、蒼生は、わたしから離れていくだろう。
でも、それではダメなのだ。
わたしは、ただ、待っているだけではいけないんだ。
蒼生は、わたしのことを守りたいと言ってくれた。
わたしも、もちろん同じ気持ちだ。
だけど、わたしは、自分の本当の想いを伝えていない。
それを伝えるのが、とても怖い。
自分の心が弱いせいだ。
こんなんじゃ、だめだ。
このままじゃ、一生、蒼生との関係が変わることはない。
蒼生と一緒になりたいなら、勇気を振り絞らないといけない。
*
わたしはクラスの教室の中で葵結と知世と悠人と一緒にいる。
屋上に行けば、蒼生が戦っている姿を見ることができるだろう。
でも、わたしは怖くて、まだ屋上に行けない。
蒼生が戦っている姿を見てしまうと、きっとわたしは不安になってしまうだろう。
だから、こうして教室で待っている。
けど、それだけじゃ、なにか足りない気がする。
蒼生にばかり負担をかけている現状に、申し訳なさを感じる。
わたしは蒼生のためになにができるだろう。
できることは限られている。
でも、なにかしたかった。
すると、葵結が近づいてきた。
「陽葵」
「……なに?」
「蒼生のことが心配なのですね」
「……うん」
「大丈夫です。蒼生は勝ちます」
「……ありがとう、葵結」
「わたしだって、蒼生を信じていますよ」
「……知世」
「蒼生は強いからな」
「……悠人」
「そうです。蒼生は絶対に勝てます」
「……わかってる」
「だから、わたしたちも信じましょう」
「……わかった」
わたしは三人の言葉を聞いて、少し安心することができた。
蒼生はわたしの自慢の従兄だ。
そんな蒼生が負けるはずがない。
だけど、わたしは……。
「なにか……迷っているのか、陽葵さん?」
「……えっ?」
悠人がわたしに、なにかを伝えようとしている。
「陽葵さんは、いったい、なにを恐れているんですか?」
「それは……」
「答えてください」
「……なにを答えてほしいの?」
「あなたが本当に恐れていることですよ」
「……どうして?」
「陽葵さんの本心を聞かせてもらいたい。陽葵さんは蒼生と離れることを望んでいるのか? それとも、一緒にいることを望むのか?」
「…………」
「俺と知世の関係、わかっていますよね? 俺と知世は恋人同士なんですよ。俺は、知世に告白しました。だから、俺は知世と付き合っています。俺の気持ちを知ってほしかったから……」
「……そうなんだ」
「私と悠人が本当は従兄妹だってことを覚えているでしょう。両親が事故で亡くなったときに進野家に養子として迎えられたのが私なのです。だから、私たちは従兄妹同士です。血のつながりは少しだけありますが、私は悠人のことを大切に想っています。陽葵は、どうですか?」
「わたしは……わたしは……蒼生を……愛している!」
はっきりと言葉にした。
もう、隠さない。
自分の気持ちは偽らない。
わたしは蒼生が好き。
だから、わたしは……蒼生に告白したい。
「知世は従兄妹だけど、俺のことを好きでいてくれる。俺も知世を好きだ。俺は知世と離れたくないと思っている。知世も同じ気持ちだった。俺は知世と付き合いました。だから、俺は知世と離れたくない。これからもずっと一緒にいたいと願っている。知世のいない人生なんて考えたくない。俺たちも中等部にいたときは、いとこ同士なんてありえないって噂になっていましたけど、俺たちが、その噂を気にしなくなってからは、なにも感じなくなりました。本当は、いとこだからなんて、まったく関係ないんですよ。お互いの気持ちが重要なんです」
「悠人……そうだよね」
そうだ。
血のつながりなんて関係あるものか。
好きに理由なんてない。
わたしは蒼生と一緒にいたい。
そこに理由なんか必要ない。
「わたしたちはライバルですね」
葵結はそう言って笑みを浮かべた。
「そうね。わたしたち、蒼生が好きなのは同じだからね」
「ええ、そうなのです」
わたしたちはお互いに見つめ合った。
「わたし、葵結に感謝しなきゃ」
「えっ?」
「この学校に葵結が転校してきて、蒼生とキスしたとき、わたし、葵結に嫉妬した。それと同時にニセモノの恋人ではいられないって思った。このままじゃ、ダメだって……思った」
「陽葵……」
「ちゃんと蒼生と向き合うって今、決めた! だから、もう葵結に負けるつもりないよ。葵結だけじゃなく、いろんな人たちに蒼生の隣は譲らないからっ!!」
「ふ、ふふっ……」
「……葵結?」
「ようやく自分の気持ちに正直になってきましたね」
「うん」
「じゃあ、わたしも遠慮しないでいきます」
「そっか。じゃあ、わたしも全力を出し切る」
わたしは葵結の手を握った。
葵結も握り返してくれた。
「蒼生は絶対に葵結には渡さないよ。わたしが蒼生を幸せにしてみせる」
「いいえ、わたしのほうが蒼生を幸せにできますからね。わたしだって絶対に陽葵には渡しませんよ」
わたしと葵結は笑いながら睨みあった。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
わたしも葵結も同じ気持ちを抱いているからだ。
蒼生が大好きだということ。
だから、わたしは蒼生に伝えるのだ。
わたしの本当の想いを……。
「みんな、いこう! 蒼生のいる屋上へ!」
わたしは三人に言った。
「はい!」
「ええ!」
「おう!」
わたしたち四人は蒼生のもとへと急いで向かうのだった。
*
「どういう、ことだ……?」
屋上での決闘は、ほぼ終わっていた。
「なんで、だよ……?」
幟谷子鯉は屋上の地面に倒れていた。
「おまえは、いったい、なにもんだよ!?」
幟谷は俺に向かって叫んだ。
「……はい?」
「なんで、おまえは、あれだけの俺の手下をなにもせずに倒せるんだ……? おかしいだろ……? だって、俺たちは、おまえをブッ殺そうと全員で戦ったんだぞ……?」
「ああ、やっぱり、そう言うんだよな」
「……は?」
「俺に戦いを挑んでくる不良たちは、みんな、そう言うんだよ。まるで運命が決まっているかのように」
「運命が……決まっている?」
「そうだよ。運命は決まっているんだ」
『なにを言っているんだ?』
俺と幟谷は同じ台詞を同時に言った。
「えっ……?」
幟谷子鯉は驚いたような表情で俺を見る。
「俺は、なにもしていない。ただ、その事実が目の前にある。だから、ここにいる不良たちは全員、運命が決まっているんだ」
その理由は、いずれ、わかることだ。
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