感情の揺り動く交差点

@LIAR27

寒さが和らいだ様に感じた

朝の通勤時の数分の出来事である


職場近くの交差点の信号を待つ

実家の車によく似た真っ黒の車を見つける

中の運転手は父なんでは無いかと一瞬見る


その人は目つきが悪い

かけているサングラスは

度が入ったやつだと勝手に思う

乗っている人は痩せていて父には到底及ばない贅肉の少なさだった


実家を半ば強引に急遽引っ越すと決めた自分


過去幼少期や10代の頃

父の言葉が無駄に自分の勘に触る事が多く

喧嘩も絶えなかったし耐えれなかった

自分が1番正しいと思うのが父の常だった


早く自立して関わりたく無いと思っていた


引っ越すとき母にだけ言って家を出ようとしていた

家賃や場所やいろんなことに口出しをしてきた

「お父さんに相談しなさい」

そう言うと思った

父は母以上にうるさい

そこで反対されなさいと言う魂胆だろう


文句を言われても勝手に出ればいいと思った

だから見せることにした

父は思い足取りで帰ってきた

仕事終わりで服は汚れていた

ダンプの運転手で色んな土やら重たい物を運んでるらしい

父は60近くになっていたが朝4時から夜の7時まで仕事をするのが毎日だった

日曜日休みがあるくらいで週に6日働いてる労基なんて言葉が辞書にない社長の元で働くのが好きだったみたいだ


「引っ越す、この物件に」

変な倒置法になったがスマホの画面に映る

間取りの写真を提示した

その発言に父は

「家賃いくらだ」


僕が決めた家賃が高ければ反対する材料になりイニシアチブを取れるんだろうと父の考えることはわかっていたが安く言う自分の逃げ腰や嘘はつきたくなかった

「10万円」

父はそのスマホの画面から眼を離したと思うと、僕の目に一直線に目つきの悪い細い眼で

「やれんのか?」


僕はまだ子供扱いされているのかと思い昔の僕ではないと首の奥をグッと筋肉に力を入れて

「余裕だ」

父は

「頑張れよ」

とニコッと笑った

僕は一瞬言葉に詰まった

意外過ぎる言葉、一人暮らしで決して安くない、いや寧ろ高い家賃

後ろの母は絶対に反対されると踏んでいたのだろう

また寂しがり屋なので

父に反対されるばかりと思っていたのだろう

予想しない結果に

顔も見てないし振り返ってもいないけど

マイナスな気持ちが立ち込めた様子だった


僕は寒い冬に引っ越した

寒い環境だとずっと思っていた幼少期

寒い気持ちが引っ越してからもあったのに

少しヤンチャな黒い車を見て中の運転手を無意識にチェックしてしまっていた


コートのボタンを開けて身体に風を通す


寒さが和らいでる日を心で感じた


きっとまた明日もこの交差点を通りたがる心があると思う、その交差点を通る道は職場への最短距離ではないのに


僕は声にならない言葉でつぶやいた

「感情の揺り動く交差点だな」

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