第3話 姿のない訪問者

その日は、先生がいなかった。


 雨がしとしと降っていて、選択授業の教室は、確か私以外は全員、学年1つ下の子ばかりで、女の子ばかりだった。


 中学校で先生がいない時にすることといえば、ただ1つ。サボり、おしゃべりである。


 だから、その時、真面目に、和琴をひいていたのは私だけだったと思う。


 ひたすら、弾いていると。


 和室の扉が、ガラッと開く音がした。


 誰も入ってこなかった。


 私はとっさに、ごめんごめん幽霊を呼び出した、と。謝った。


 先輩、勘弁してくださいよー。


 で、済んだが。


 今思うと、あの時に和室を支配していた恐怖は、襲われるかもしれないと言う恐怖であろう。


 水戸二中は、開けた学校であり、学校外から自由に人が入る事は可能だったろう。


 私は、危機意識が薄く、知らなかったのだ。


 女性の3人に1人は、家庭内で、性的被害を受けている、ということ。


 体を売ることにためらいがなかったり、援助交際、売春、性的作業に入る人間は、家庭内に慣れているからこそ、何のためらいもなく、そういった産業に入り、心を壊していくのだと言うことを。


 私はギリギリ踏みとどめられたけれど、果たして、その後、彼女たちがどうしてるか私は知らない。



 茨城は、北関東の三県のひとつであり、男尊女卑が激しく、ラブホテルはあちこちにあるし、性的産業の規模も大きい。


 幼稚園から一歩歩けば、大人の性の世界が広がっている。


 そんな地獄と隣り合わせなんだ、水戸の中心部は。


 何度だって言う。


 性産業の女の子たちを、自己責任だと叩かないでほしい。


 自分が芝居の世界でしか生きられないように、性の世界でしか生きられない人もいる。


 果たして、この世の中に、一切の欲望をいだかず、一切の執着を捨て、この世の大いなる希望を捨て、教会のそばで、排泄もせずに生きていられることができると言うのだろうか。


 他人に石を投げるものは、いずれ、自分の投げた石で、自分の心を傷つける。


 それこそが、怪談と言わずに何と言おう。

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