実話怪談
荒川 麻衣
第1話 魔女
これは実話を基にした話です。
私はこう聞きました。
ある日、とある女性が、推しに対して返信を送ったそうです。ツイッターで。
その送った相手は2人いて。
片方は、彼女と同い年の俳優さん。といっても、彼女と学年は違います。
俳優さんは早生まれで、彼女は遅生まれですから、学年は一個違いです。
もう片方は、彼女より年上の演出家さん。
彼女が返信を送った後、
奇妙なことが起こりました。
いつも誤字脱字をおこなわない二人が、誤字ツイートをおこなったんです。
彼女はびっくりして、あぁこうなったかと。
彼女には1つ秘密があります。
彼女はその声で、高校時代、学校中に、全校集会で、マイクロフォンを使って、演説をしょっちゅうおこなっていました。
彼女には信者がいっぱいいて、彼女の周りにはいつも信者がいっぱい。
信者たちは、こういう噂を信じていました。
彼女が僕たちに構わないのは、男がいるからだ、と。
信者にとって、彼女は、きっと教祖みたいな存在だったんでしょう。
彼女にはそういった気持ちが分かりませんでした。
彼女にとっては、日常生活こそが、イレギュラーと申しますか、非日常であって、舞台に立っていることが普通であって、稽古場にいることが普通であって、演劇に携わっていることが普通だったので、いまだに彼女は、普通の人の気持ちがわからないそうです。
つい、演じてしまうのだと。
あれから、彼女が高校卒業してから、もうすぐ、20年が経ちます。
彼女の言葉は、いまだに、男を惑わす言葉なのでしょう。
その蠱惑的な響きは、Twitterと言う言葉だけの手段であっても、彼女の声を反映しているのでしょう。
要するに、彼女を魔女だと呼ぶ人もいるでしょう。
彼女は人間ではないと叫ぶ人もいるでしょう。
彼女が魔女だから、俺たちには責任がない。惑わした彼女が悪いと。
私はこう聞きました。
好きで、この顔に、この体に、この声に、生まれたわけではございません。
選べるならば、別の顔で、別の体で、別の声で生まれたかったです、と。
私はこう聞きました。
この顔も、この声も、ある程度は作ったものです。
役者でいる以上は、本来であれば、もう少し顔を整えて、声も整えるべきなのでしょう。
しかしながら。
私は、自分自身が嫌でたまらないのです。
だから、わざと醜くし、わざと悪声になるよう試みましたが、声だけは、変わらなかったようです。
つまり、この声は、いまだに、人を惑わす声なのでしょう。
こんな声にさえ生まれなければ、
きっと、炎上することなく、
信者たちが群がることなく、
推しに迷惑かけることもなかったのこともしれません。
もしも生まれ変われることならば、
その時は、この声ではなく、普通の人として、そういった人生も悪くないのではないでしょうか。
まぁ転生したところで、
役者は地獄行きと聞きますから。
確定した地獄ならば、
ならば地獄に行くまで、
せいぜい楽しもうかなと。
終わり。
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