押して押しまくったら絆されそう

赤猫

押して押しまくったら絆されそう

 面倒な式が終わると私は皆みたいに別れを惜しむことはなくさっさと帰る準備をする。

 別に写真を撮るとかそういうこともする気ないし帰って寝たいから私は帰宅RTAする事にする。

 小学校も中学校も卒業式の日は帰宅最速記録の保持者になっている。


「待って!」

「…げ、面倒なのがやってきちゃあ」


 皆てっきり外に出て騒いでいると思っていたのに一人だけ…最後の最後まで私に声をかける人がいた。

 遊馬藍あすまらん…だったかな、名前。

 入学当初から私の好きな食べ物や趣味とかそんなことを聞いてきて何回も適当な返しをしてきた。


「最後の最後までなんで教えてくれへんの?!」


 彼は別に関西に住んでいる人ではない。

 好きなお笑い芸人の人がそういう喋り方をするから見ていたらそうなったそうだ。


「なぁ?聞いてるやろ?葉山はやまさん!なんでいつも無視するん!あ、やっぱりそうちゃんの方が…」

「絶対にちゃん付けしないで」

「あははー!冗談ですやん」


 ため息をついて私は、帰るために靴を履き替えて内履きを鞄に詰め込む。

 遊馬くんも慌てて靴を履き替えている。


「慌てたら怪我するよ?」

「そう思うなら待ってや〜」

「待たねぇよ、帰るんだから」

「じゃあ一緒に帰ろ!ついでにご飯も食べよ!」

「行かないし、帰って飯食ってゲームして寝る」

「そんなこと言わんといてー!最後の最後までそんな対応されたら俺泣いちゃう」


 構うと喜ぶことは理解しているので放置をする。

 スタスタと私が歩き始めると声を出して遊馬くんは慌てて着いてくる。


「親と帰らなくていいの?」

「先に帰ってって言ってある…好きな子と帰るって」

「な…?!アンタには恥じらいとかそういうのはナイワケ?!」

「ないね!」


 私は思っいっきり卒業証書を丸めて彼の後頭部目掛けて殴った。

 パァン!といい音がして私は気持ちよくなった。

 もう一回なら…良いかな?なんて思ってしまったのは秘密である。


「痛いよぉー」

「うるさいあんぽんたん!…でご飯たべるの?」


 私がそう聞くとパァっと目を輝かせてグイッと顔を近づけてきた。


「え?!良いの?!一緒にご飯?!」

「近い近い!離れて!」


 ウザがっている私の横には、何を食べるか聞いてくる彼がいる。

 こんな日も悪くないなと思ったしまった私が絆されて彼とそういう関係になるのは時間の問題だということを私はまだ知らない。



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