3月4日(土)

 昨日、世間はひな祭りだったので、仕事帰りの私が駅ビルの地下食品売り場を覗くと、ひな祭りケーキやひな祭り寿司、ひな祭り用のお惣菜などを買い求めるお客さんでごった返しておりました。

 仕方なくそのまま踵を返して、下味冷凍してあった塩麹鶏ももを唐揚げにしたのでした。

 この街はファミリー層が多いような気が致します。


 さて、歯医者に行きます。

 いま通っている歯医者はすぐ裏手が暗渠あんきょです。暗渠というのは、要するに埋め立てた川ですね。多くは高度成長期の中で発生していて、オリンピックとかを契機に増えたとか何とか。

 元が川なので道が妙にくねくねしていたり、なんとなく少しだけじめっとしていたり、古い住宅の裏口が並んでいたり、異様にマンホールが多かったり、水音がしていたり、他の道と交差する地点にかつて橋だったなごりの欄干が残っていたりすると、んもう、私のテンションが爆上がりするのです。

 暗渠が好きです。

 自分がかつての川の上を歩いているという感覚。自分の下に川が流れているという事実。既に流れていないこともあるけれど、かつて川だったというだけで、とてもワクワクします。すごく地味だけど。

 歯医者の裏の暗渠にも実は欄干が残っています。正確には欄干の端っこの、橋の名前が彫ってあったりする柱です。

 小躍りしたい気持ちを抑えつつ暗渠を歩き、欄干の跡をスマホのカメラで撮影します。とても不審に思われそうなので、ビクビクしながら。「んん~? ちょっとこれ、えーと? 何だろう?」みたいな具合に自分的小芝居も交えたりして。もしかすると観光客かな? という風に見えなくもないのでは、なんて誰にともなく装いながら。まぁ、実際のところは私自身が大変地味なので、特に誰も気に留めないとは思いますが。


 通っている歯医者さんではとても丁寧な女性の担当医さんと、少しギャルっぽい衛生士さんが診てくれます。

 このギャルっぽい衛生士さん、詰め物の下が虫歯っぽいと指摘が入ったところが実際にそうなっていた実績があり、私はとても信頼しているのです。

 前に、他の患者さんにデートのお誘いを受けているのを聞いてしまい、「おおお! こういうのアリなの? で、どうするの?」と聞き耳を立てていたら「あ、映画は苦手なんで大丈夫でーす!」と爽やかにお断りなさっていた。さすが、慣れていらっしゃる。


 今日は治療の仕上げをして貰います。次回は検診で、フッ素コートなどして貰います。憂鬱なはずの歯医者ですが、私の頭の下の数メートル先をかつて川だった道が走っていると思えば……思えば……あれ? なんか今、言ってて「遠いな」って思ってしまった。

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