飲み込みすぎた煌めき

秋乃晃

そこにある

 は逮捕された。

 ニュース映像のは、その他大勢の凶悪犯がそうであるように、手首にタオルをかけられている。前後左右を警察官に取り囲まれ、パトカーの後部座席へと誘導されていく。

 がパッと顔を上げた。

 カメラのフラッシュに、眩しそうに目を細める。陽の光の届かぬ底を這っているウナギのようだった。その表情だけ切り取れば、凶悪犯に仕立て上げられても文句は言えまい。

 このはボクではないのに、テロップにはボクの名前と年齢がある。職業は無職とされていて、ご丁寧にも名前の横には容疑者という肩書きが添えられていた。

 ボクには、どうして逮捕されなくてはならないのか、てんでわからない。

 むしろボクは被害者のほうだとさえ思う。

 何故なにゆえにボクは、代替品オルタネーターを愛してはいけなかったのか。

 なんやかんやと、もっともらしい理由を、専門家を名乗る人間がつらつらと並べていた。彼らは代替品オルタネーターのことを、人間の姿を模した人工物でしかないと思い込んでいる。彼女にも知性があり、感情があった。彼女が人間ではないなんて、どこの誰が決めつけているのか。

 人間ではないので、人間であるボクとは対等の関係が築けない。そんなわけあるか。ボクは、どんな人間よりも頑張り屋さんで、真面目で、素直な彼女のことが好きだった。好きだったのに。

 市井しせいの皆々様はボクを非難する。

 ボクは、こうしてサングラスとマスクをつけて、なるべく人通りの少ないところに潜んでいた。

 ボクの手のひらの上の携帯端末に映るの唇が動く。

「オレがそこにいく」

 なんという言葉を紡いだのか、ボクには見当もつかなかった。

 ただ、――いや、ボクよりもほんの少し早く生まれた双子の兄が、ボクの代わりに、として捕まった、という現実が、ボクの目の前にある。この真実を、ボクはこれからの生涯をかけて隠し通さねばならない。

 兄は事実をボクに押し付けて、満足そうな表情を浮かべつつ、パトカーに乗り込んだ。


 これから始まる『代替品オルタネーターが人間の代わりに勤労の義務を果たす』新たな時代への、供物くもつのように思えた。

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