飲み込みすぎた煌めき
秋乃晃
そこにある
ボクは逮捕された。
ニュース映像のボクは、その他大勢の凶悪犯がそうであるように、手首にタオルをかけられている。前後左右を警察官に取り囲まれ、パトカーの後部座席へと誘導されていく。
ボクがパッと顔を上げた。
カメラのフラッシュに、眩しそうに目を細めるボク。陽の光の届かぬ底を這っているウナギのようだった。その表情だけ切り取れば、凶悪犯に仕立て上げられても文句は言えまい。
このボクはボクではないのに、テロップにはボクの名前と年齢がある。職業は無職とされていて、ご丁寧にも名前の横には容疑者という肩書きが添えられていた。
ボクには、どうして逮捕されなくてはならないのか、てんでわからない。
むしろボクは被害者のほうだとさえ思う。
なんやかんやと、もっともらしい理由を、専門家を名乗る人間がつらつらと並べていた。彼らは
人間ではないので、人間であるボクとは対等の関係が築けない。そんなわけあるか。ボクは、どんな人間よりも頑張り屋さんで、真面目で、素直な彼女のことが好きだった。好きだったのに。
ボクは、こうしてサングラスとマスクをつけて、なるべく人通りの少ないところに潜んでいた。
ボクの手のひらの上の携帯端末に映るボクの唇が動く。
「オレがそこにいく」
なんという言葉を紡いだのか、ボクには見当もつかなかった。
ただ、ボク――いや、ボクよりもほんの少し早く生まれた双子の兄が、ボクの代わりに、ボクとして捕まった、という現実が、ボクの目の前にある。この真実を、ボクはこれからの生涯をかけて隠し通さねばならない。
兄は事実をボクに押し付けて、満足そうな表情を浮かべつつ、パトカーに乗り込んだ。
これから始まる『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます