第25話 産後3年、後日談
離婚から半年。短いようで色々なことが起こった半年だった。
まず、離婚した元夫である博人だが、遠方の事業所に転勤になったそうだ。2回目の面会交流の別れ際に告げてきた。嘘をついて不倫していた男なので、転勤のことも嘘かもしれないと思っていたが、本当のようだ。転勤のきっかけは、もちろん給与差押のための滝山弁護士による訪問。滝山弁護士から博人の不貞行為を聞いた総務部長が会社上層部に報告した結果、懲罰人事として転勤になったと。そう説明する博人はわたしに恨みがましい目を向けてきたが、自業自得もいいところ。
さらに、元夫のクレジットカードが止まったそうだ。支払いタイミングを間違えたのが原因だと本人は主張している。だが、家賃とカードの支払いで月の給与がほとんどなくなる生活をしていたのだ。養育費8万円を天引きされるようになったことで、支払うお金がなくなったのだろう。もしかしたら、ブラックリストに載ったかもしれない。この男の自業自得ではあるが、計画性はどこに置いてきてしまったのだろうか。付き合っていたときや、結婚した当初はこんな人じゃなかったと思うのだが。
後日、滝山弁護士から連絡があり、会社から博人の転勤について報告されたとのこと。しかも、博人の勤務態度によっては給与が下がる可能性があるので、天引きによる養育費の金額についてご相談したい、とも付け加えられたそうだ。本当に自業自得もいいところなのだが、紗智の将来のために養育費8万円を支払えるだけの能力を発揮してほしいと願うばかりだ。
「転勤になったからって紗智との面会交流は中止ばかり。父親としての自覚はないのかしら」
SNS のチャットに届いた元夫からのメッセージを見て、憤りよりも呆れが先に来てしまう。この男を元夫というのが悲しくなってくる。養育費を給与天引きできるよう話を進めてくれた滝山弁護士には感謝しかない。
それから、紗智は3歳になった。3歳の誕生日は、わたしの両親が来て一緒に祝ってくれた。わたしだけで祝うつもりだったのだが、両親からぜひ一緒に祝いたいと連絡が来て、3人で祝うことができた。紗智も喜んでいた。
両親は前からこちらに遊びに来たかったそうなのだが、娘夫婦の生活を邪魔するわけにはいかないと我慢していたらしい。しかし、今回のことで娘であるわたしの手助けと、紗智に会いたい気持ちが強まった結果、月に2、3回は遊びに来るようになった。紗智も祖父母が遊んでくれるのが楽しいらしい。
紗智の誕生日から1週間ほど経った頃、義母から誕生日プレゼントが届いたのだ。紗智が義母の家に連れて行かれたとき、テレビに釘付けになっていた番組のおもちゃ。たしかに前からこの番組は特に集中して観ていた。開けた途端、紗智が夢中で遊んでいるので、その動画を送るとともに、電話でお礼を伝えた。
「紗智の誕生日プレゼント、ありがとうございました。すごい集中して遊んでます」
「動画、見たわ。紗智ちゃん、楽しんでくれてるみたいでホントよかった」
義母の声は嬉しそうで、その声を聞いているわたしも嬉しい気持ちになった。紗智が電話越しにお礼を言うと、義母のテンションアップ。チャンスと思い、前々から言い続けてきたことを持ち出す。
「お義母さん、ぜひ直接お礼を言いたいのですが、いつ頃おじゃましてよいですか?」
「まだ半年しか経ってないわ。まだダメよ」
「ですが……」
「博人のこと、ごめんなさい。一生許さなくていいから。でもね、私の覚悟が決まってないの。会ったら許されたくなっちゃう。だから会えません。ごめんね、京子さん、紗智ちゃん。本当にごめんなさい」
そう言われてしまい、わたしはうまく言葉を紡ぐことができなかった。これからも写真と動画は送らせてもらうことの了承を得て、義母との通話を終えた。義母にとって、紗智が初孫なのだ。目に入れても痛くないという表現がピッタリと言わんばかりに紗智のことを溺愛していた。会いたくないわけがない。それでも、会えないという義母の気持ちを思うと、わたしの胸は張り裂けそうになる。
たくさん紗智の写真や動画を送ろう。紗智にももっと電話で話してもらおう。紗智には、紗智のことをとても大切に思っている祖母がもう1人いるのだということを忘れてほしくないから。
-- 2章 了 --
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