第30話 作戦会議(前)

「作戦会議をいたしましょう」


 真央の不倫相手が、真央の勤める会社の役員であることを伝えると、若水さんはそう提案する。


「えっと、何の作戦ですか?」


「これからの貴方様の行動の作戦会議でございます。奥様の不貞行為を示す映像が手元にあり、不倫相手の特定もできております。あとは煮るなり焼くなり好きに料理できますが、貴方様の希望を十全に通すには作戦が必要になってまいります」


「僕の、希望?」


「左様でございます。大きくわけて2つ、考えていただくことがございます。1つ目は、奥様とのご関係。離婚を望まれるのか、再構築を望まれるのか。2つ目は、不倫相手への報復措置。慰謝料請求が頭に浮かぶと思いますが、他にも不貞関係の終了や接近禁止など、求められることは多岐にわたるのでございます」


 真央が不倫しているのか。不倫しているのであれば、相手は誰なのか。そればかり気にしていて、先々のことを考えられていないと気づかされた。


「奥様との関係を考えるには多少の時間が必要と存じます。ですので、まずは不倫相手への報復措置から考えられることをお勧めいたします」


「そう、ですね。慰謝料は請求したい、です」


 突然考えることになり、慰謝料は口にすることができた。


「あとは……あ、気になったんですけど、会社に知らせるとか辞めさせるとかってできるんですか?」


 ふと思い出したのは、以前読んだことのあるマンガのシーン。不倫された側が不倫した側のことを会社に伝えて減給や降格、人事異動、左遷されている場面。場合によっては退職を促されているものもあった。常務取締役が不倫を理由に降格や左遷、退職を促されたら溜飲が下がるかもしれない。そう思って聞いたのだが、若水さんの回答は僕の期待とは違うものだった。


「社内不倫とはいえ、基本的には個人間の問題となります。そのため、当事者の頭越しに会社に伝えたことによって不利益が発生した場合、逆に訴えられてしまう可能性がございます」


「それじゃあ、社会的制裁は加えられないということですか?」


「きちんと慰謝料が払われている場合には、社会的制裁を加えるのは難しいと言わざるを得ません」


「そんな……」


 がっくりと肩を落としている僕に、若水さんから救いの言葉が紡がれる。


「ですが、慰謝料が支払われない場合には、その限りではございません。法的な準備が必要ではございますが、慰謝料が支払われない場合、保有資産からの強制徴収や給与の差し押さえを行うことができます。給与の差し押さえの場合、会社から貴方様への支払いとなりますため、手続きの際に理由を説明する必要がございます」


「ということは?」


「慰謝料が払われない、もしくは滞ることを願ってくださいませ。そうなれば、大手を振って社会的制裁を加えることが可能となりますよ」


 僕はソファに身を預け、深く息を吐く。うまくやれれば、社会的制裁を加えることができそうなことを知り、思った以上に安堵している自分に気がついた。


「若水さん。僕、離婚します」

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