第25話 続・素人尾行

 2人が入っていった建物に他の出入り口がないかを確認するため、建物の周りをぐるり回る。裏には別のラブホテルが建っているので、先ほどの出入り口しかなさそうだ。裏の建物と中でつながっていなければ、という条件つきだが。


「だけど、ここらへんは喫茶店とか全然ないな。ラブホテルの入り口を見張っとくのはできなさそう」


 2人が入っていった出入り口側に戻ってきたが、見回す限りラブホテルばかり。先ほどのオフィスとは違い、お店の中に隠れて見張っておくことはできない。


「こういうとき、興信所の人たちってどうするんだろう?」


 建物の出入り口が面した道路を行ったり来たりしてみるが、隠れておく場所もなさそう。ここでウロウロしていても、いいことはないだろう。僕は諦めて駅の近くまで戻ることにした。


「まだ火曜日だし、家に帰るはずだよな。少なくとも、真央から今日泊まりっていう連絡は来てないし」


 駅までの道中、信号待ちのタイミングでスマホを確認したが、特に真央からの連絡はない。この時間、真央から連絡があること自体めったにないことなので、いつも通りといえばいつも通りではある。


「となると、電車で帰るはずだよな。えーと……よし、このファーストフード店なら向こうから見られることもないだろう」


 駅前のロータリーに面していて、1階と2階に客席があるファーストフード店に入る。飲み物とサイドメニューを注文。2階に上がると、運良く窓際の座席が1つ空いていた。


「よし、狙い通り」


 空いていた座席に座ると、駅の入り口がよく見える。駅に向かう2人を見つけたタイミングで1階に降りれば、鉢合わせる心配をせずに後を追いかけられるはず。

 サイドメニューを食べきり、ちびちび飲み物を飲みながら2人が来るのを待つ。

 ラブホテルに入ったのが17時ごろ。火曜日の真央が家に着くのは21時ごろ。ここから家まで1時間弱。ということは、遅くとも20時ごろには駅に来るはずだ。

 追加で購入した3本目の飲み物がなくなりかけたころ、ようやく2人が駅に向かって歩いてきた。

 僕は急いで飲み物を飲み干すと、手早くゴミを片付けてファーストフード店を後にする。


「さて、男がどっちに乗るか」


 駅のホームで抱き合っている真央と男を離れたところから見つめる。人が多いとは言えないホーム上では、距離を取るしか隠れる方法がない。こちらを向くなと願いながら、男がどちらの電車に乗るのかに注目していた。

 上り線と下り線、両方の電車がホームに侵入してくる。どちらにも行けるよう心算をしている中、視線の先で真央が男とキスをしていた。カメラ越しに合体場面を見ていたせいか、キスをしたくらいで心がざわめくこともない。

 電車のドアがあき、中から人が吐き出されてくる。それでも2人はキスをしている。焦れていると、電車のドアが閉まることを示す音楽が流れてきた。そこでようやく2人はキスをやめた。そして、手を振りながら別々の電車に乗っていく。

 僕は目立たないよう人混みに紛れながら、男が乗った電車の別の車両に乗り込む。


「さて、どこまで乗っていくんだ?」


 スマホに登録した交通系ICカードにお金をチャージしておく。

 真央と逢瀬をしていた駅からだいたい15駅くらい。時間にして1時間近く電車に乗っていると、男が電車内で移動を始めた。

 そして、次の駅で電車を降りる。念のため距離を空けて追いかけると、改札から外に出ていった。


「ここが最寄駅か?」


 駅名を頭に叩き込む。他の人を何人も間に入れて、男の後を追いかける。家まで着いていくつもりで駅から出るのと、男がタクシーに乗り込むのが見えた。


「え……マジかよ」


 タクシー乗り場には待っている人がいるし、次のタクシーはまだいない。

 もし、運良くタクシー乗り場に誰もおらず、次のタクシーが待っていたとしても、前のタクシーを追ってもらうなんて現実的じゃない。検証していた人たちがいたが、ことごとく失敗していたのを覚えている。

 男が乗ったタクシーが去っていくのを見送るしかできなかった。


「1人だとここが限界なのかな…若水さんに相談してみよう」

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