73.俺一人で三人倒す

 

 【掘削】っ!!


 俺に迫って来るヤセノとギスス。

 その足の踏み出す先――地面に向かって、俺は剣を突き刺してスキルを発動する。


 ――ボッゴォオオッ!!


 モグラ型魔物から手に入れた【掘削】は、【強化爪】を発動した手では試したことがある。

 でも、今回は手じゃなく剣、しかも“魔力纏い”の剣っつう試したことの無いパターン。

 どうなるか賭けだったけど、上手くいったようだ。いき過ぎなくらい上手くいった。


 剣の突き刺さった地面は、爆発したんじゃないかってくらいの轟音と大量の土塊つちくれを撒き上げて、地面を穿うがった。

 穴はゆったり四人掛けの丸テーブルくらいの大きさで、大人が胸まで浸かる深さの穴。

 いきなり足の下ろし先を失ったでぶ双子が、二人同時にその穴に頭から落ちていくのが見えた。


 でも、地面に穴が開いたと同時に、槍の軌道に構えていた小盾に衝撃が走る。

 ガガッ――バキンッ、ガツッ!

「ぐぉっ」


 井戸から飛び出てきた骸骨の槍が打ちこまれた。パッと見は一突きなのに、三回の衝撃。

 小盾は二突きしか保たなかったようで無残に砕けちまって、最後の一突きが俺の硬化した腕に直撃した。


 腕には、折れちまったんじゃないかっつうくらいの痛み。

 それに、腕と頭を覆っていた魔力は、完全に消えちまった。反動で息苦しくて全身が重いけど、息さえしてれば回復するからいいや。


 それより……良かった、痛みは走ったけど腕は繋がってる。

 腕を確かめた俺は、敵三体の確認。


 でぶ双子は穴に落ちた。

 そして、骸骨はその近くの地面に着地。俺に背中……背骨を向けて着地して、すぐに反転して槍を向けてくる。


 今の身軽な双子なら、すぐに穴から出てきちまいそうだけど、二人はお互いのあばら骨が絡まってるみたいだ。

 よし、この隙に骸骨野郎に集中出来る!


 骸骨野郎。

 全身見事に白骨化してて、これまでのリビングデッド共とは清潔感が違う。リビングデッド呼びしていいのか? ってくらい違う。

 これなら【破砕噛】で口を付けられそうなくらい綺麗な骨。ぅおえぇ……絶対噛まないけどなっ!


 そんな骸骨野郎が、槍を俺に向けてにじり寄ってくる。

 人間じゃなかなか出来ないような片手持ちで、もりでも突くような構えだ。


 そして、魔石だ。

 男の『アソコ』の位置に、縦に! 上向きに! くっ付いてやがる。黒々テカテカと、堂々とっ!

 なんでそんなトコに、そんな風に、魔石があるんだよ!?

 おかしいだろっ!?


 さらに、ある意味魔石以上に衝撃的な物が俺の目に映っている。

 それは……二つのスキル結晶。

 人間の物ではなく、魔物のスキル結晶だ。俺の親指の先くらいの、小さなスキル結晶が二個。

 魔石のデカさと釣り合って無えし……その並びもおかしいだろっ!?


 上向きデカ魔石の下の方に、意味ありげにちょっと離れた位置でちんまりくっ付いてやがるソレは――。

 『玉』にしか見えねえ。

 魔石と結晶で、本当に男の『アソコ』じゃねえかよ!



 ……いやいや。落ち着け、俺。

 見た目はどうあれ、魔石もスキル結晶も丸々見えてるってことは、上手くすれば砕くまでもなくもぎ取れるってことじゃねえか?


 特に魔石なんかはデカイし、黒々と魔力が籠ってる。売れば、かなりの値段になるだろう。

 スキル結晶も、直接触らなきゃ何のスキルか分からねえし、勉強してねえからスキル名も思い当たらないけど……たぶん、“水から飛び出て来れたこと”と“一突きで三突きになった槍の攻撃”に関係するスキルだと思う。もともと水ん中に棲む魔物だったか?

 特に突きのヤツなんて、俺が取り込めば結構使えそうだ。


 ――しかぁしっ!

 俺にはもはや『アソコ』にしか思えなくなっちまったソレを、手で触る……握る、ましてやもぎ取るなんて無理じゃね?

 想像するだけで、俺のアソコがヒュンとなる。

 けど、やるしかねえよな……。


 そんなことを、瞬間的に頭ん中で考えていると――。


 シュッ!!

 ――むっ!


 骸骨野郎が、素早い踏み込みで俺の頭めがけて槍を突き出してきた。

 ――ボボボッ!

 重い身体をなんとか動かして、紙一重で避けると、耳のすぐ横で三回の風切り音。

 やっぱり、同じ場所を三突きしたようだ。


 そして、避けたはいいものの、骸骨野郎は空振りで体勢を崩すことも無く、すぐにまた俺に槍を向けてくる。

 一発で三突きは厄介だけど……。

 今、俺の周りに他人の目は無え。

 これは、“見られて困る”スキルを使っても困らねえってことだ。


「――なら」

 簡単なことっ!


 休むことなく俺の心臓めがけて繰り出してくる骸骨野郎の次の槍を……避けない!

 むしろ、剣を捨てて――。

 【軟化】っ!!


 ――ヂュポポポッ……。


 野郎の槍が三撃、正確に俺の心臓をめがけて突かれた。

 でも、軟化した俺の身体は貫かれない。変な音を立てて穂先を包んで伸びるだけ。


 そして、右手で槍の柄をガッチリ掴んで、槍の動きを封じ……。

 左腕をモモンガ娘の時みたいに振ってビヨーンと伸ばして、それを骸骨野郎に巻きつける。

 俺の気持ち悪く伸びた腕が、野郎の首の骨から両腕、ついでに槍まで巻き込んで……『アソコ』だけは表に残して足までグルグルと巻きつく。

 そこに【巻きつき】発動で、一気に締め上げる!


 全身グルグル巻きになった骸骨は、骨が軋むほど力いっぱい抵抗してくるけど、いくら力が強かろうが、すでに全く動けないただの骨の集まりになってる。

 そして、巻き付いてる俺ごと地面に倒れた。


 ――と、いうことで……ゴクッ。

「い、いくぞ……」


 俺は、手を、野郎の……モロ出しの……『アソコ』へ伸ばす。

 ま、まずは玉――じゃなくてスキル結晶に手をかける。


 優しくする必要なんて無いのに、どうしても『玉』に思えてきつく握るなんて出来ない……。

 そしたら、二つのスキル結晶は、それぞれ【水上跳躍〈3〉】【多重突き〈2〉】だった。


 思った通り、水から飛び出て来たことと、一突きが三突きになるスキルだな。

 レベル付きっつうことは、《レア》スキルじゃねえか!?


 ま、どっちにしろ……取り込む。

 結晶に触ったまま念じると、結晶は二個ともサラサラと消えた。


 そんで、残るは魔石。

 スキルが無くなったことに気付いたのか、地面を転がりそうになるくらい骸骨野郎の足掻きが強まる。

 けど、俺の【巻きつき】は極まってるからビクともしないけどな。


 ゴクリ。

 俺は覚悟を決めて、重力に逆らって上向きに立ってるソレに手を移す。

 俺の手じゃ掴みきれない太さだけど、黒光りするソレをむんずと握る。


 か、硬くて……お、おっきい。

 ――なんて思うワケなく、思いっきり力を込めて、引き抜……引き抜、くっ。


「ぐぬぬぅ……ぅう、おらぁあっ!」


 思った以上に骨ときつく結び付いてたけど、グリグリグリグリ動かして力づくで引っこ抜く。

 その瞬間、骸骨野郎は他のリビングデッドと同じく死んで、ただの骨の集まりになった。


 【巻きつき】を解いてまともな人間に戻った俺は、でぶ双子の落ちた穴に目を移す。


 そこには、アバラ骨が絡んだまま、二人一緒に穴から這い出してくるヤセノとギススの姿があった。

 一心同体っつうか……ひと固まりになってっつうか? 偶然だとは思うけど、右利きの青髪ヤセノが右側、左利きの赤髪ギススが左側で絡み合って一体になってやがる。


 とにかく、もともと一つの生き物だったかのように立ち上がった。

 そして、もたつきながらも子どもの遊びの二人三脚みたいに脚を動かして近付いてくる。腕は横に広げて、まるで通せんぼをしているようだ。


 ふんっ。そんなことしようが、お前らの魔石の在り処は割れてんだ。肩甲骨の裏と、尾てい骨のとこだったな。

 コイツらのにはスキル結晶なんか付いてないから、魔石を砕いて終わらせてやる!


「――魔力纏い!」


 【酸素魔素好循環】のおかげで、呼吸をしてるうちに充分に回復した魔力を身体と剣に纏う。



 呆気ないほどに簡単に終わる。

 絡みあって動きの悪いヤセノとギススの裏に、わざわざ回り込む必要も無い。


 【突撃】でギススの正面に飛び込み、尾てい骨ごと裏にある魔石めがけて【多重突き〈2〉】を重ねた【刺突】。

 手に入れたばかりのスキルが効くか不安だったけど、俺の刺突もちゃんと三重突きになって、一突き目で尾てい骨を砕き、二突き目で魔石を砕き、三突き目は空振った。

 素早くその場を離れて、そこから今度はヤセノの懐に飛び込んで同じ攻撃。


「ふぅ、終わったな」


 足許に崩れ落ちているでぶ双子の亡き骸を見下ろして、ひと息つく。

 そしてベルナールがまだ戦ってるだろう方向を見遣る。


 なにチンタラやってんだ、なんて心ん中で思ってると……。


「見事なお手並みでした、レオ殿」

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