62.死臭漂うラボラット村
「ラボラット……村?」
ベルナールがイントリのギルドマスターから仕入れた、行方不明になってるっつう冒険者達の居そうな場所。
「まずここ、ロウブロー領は、その南部で東側(南東)をオクタンス子爵領、西側(南西)をガット男爵領と接している」
地図的にはガット男爵領とオクタンス子爵領が並んでる所に、中程まで
「そのロウブロー領の南端、イントリから南南西に一日半下った先にあるのが、ラボラット村だ」
三つの領地のほぼ真ん中になるそうだ。
「へぇー。んで、“砦”って?」
「うむ。かつて……王国成立以前、群雄割拠の時代の防衛線の名残で、堅固な防壁は残して内部は村として機能している、らしい」
「そのラボラット村は、指名依頼の巡回対象に入っていたという事でしょうか?」
「その通りだ、マリア。巡回ルートはギルマスにも秘密にされていたが、隊列が最後に目撃されたのが南行きの街道だそうだ」
街道はラボラット村に続いている、と。
でも……それが分かったところで、俺達が今向かっているのは逆のオクタンス領。さっき来た街道を戻っているんだ。
「今、止まって引き返せば、怪しまれないか?」
敵の“耳”だって、さすがに気付くんじゃなかろうか。
けど、ベルナールから返ってきた言葉は、意外だった。
「戻りはしねえ。このまま領境は越える……が、すぐに南下してラボラット付近の領境を超える」
「ああ……そっちにも道が繋がってんのか?」
「いや、道なんて無い。関も無い。領境は互いの兵が緩く監視してるが、向こうの監視を掻い潜って潜り込むのさ」
おいおい、ベルナールが、とんでもねえ事を言い出したぞ!?
「はあっ?! そんなことして良いのかよ? それこそ貴族同士の問題になるだろ……」
「レオの言う通りです。そうならないように、ベルナールさんと私達だけで来たんですよね?」
そうだそうだ!
――って、あれ? 俺っていつから優等生キャラになったんだ?
いつもなら俺がそんなことを言い出して、マリアやフレーニ婆さんに止められるってパターンだったんじゃねえかな、これ。
俺は前言撤回してベルナールに賛成するかと考えていたら、ベルナールが俺とマリアに大きく頷いて、そして――。
「よく分かってんじゃねえか。だ・か・ら、だ」
「「……?」」
片方だけ口角を上げて企み顔で嗤うベルナールに、一瞬ワケが分からなかったけど……そういうことか。
「こういう事態も想定してのオレ達だ。ここからの行動は、エトムント様の預かり知らぬことになるが、了解は取れてる」
「失敗しても『キューズのギルマスとお付きの冒険者が勝手にやった』、だろ?」
「そういうことだ、レオ。まあ、失敗しねえようにするがな」
「だな! ベルナールがいるし俺もいるからな!」
「もぉう、二人して……」
マリアは呆れていたけど納得はしたようで、俺らは領境を目指して馬車の脚を速めた。
夕方には領境を越えた。
領境って言っても線が引かれてるワケじゃなく、街道沿い以外は結構深い森が境になってるそうだ。
そして、街道脇で馬をハーネスから外して、裸馬に跨って脇道をずんずん進んでいく。
「おい、おっさん! 客車は置きっ放しでいいのかよ? 盗まれねえか?」
初めての裸馬の乗り方に苦労しつつ、ベルナールに訊く。
「ああ、たぶん大丈夫だ。もうすぐ
ベルナールの言う通り、少し進んだ先に領境のオクタンス側を監視する部隊の小屋があった。
俺とマリアを待たせて、ベルナールがそこの隊長に何やら書類を見せながら二言三言言葉を交わすと、話が通ったようだ。
ベルナールが馬具付きの馬を二頭引き連れて来た。
「これに乗り換えるぞ。置いてきた客車の回収の手配も済んだし、水と食料と毛布も頼んできたから揃ったら出発だ」
「やけにすんなり行ったな」
「言ったろ? 領主様の了解は取れてるって」
「さすがギルマス。……で、どういう風に行くんだ?」
ここからは、この監視部隊が使っている移動路を馬を駆って南下。
途中の中継拠点を借りて夜を明かし、明日の早朝に徒歩で森を抜けてラボラットに向かう段取りらしい。
そんで、当然魔物は出るから邪魔なモノだけ倒して処理しつつ移動路を駆け、拠点で仮眠をとって早朝を迎えた。
しっかりフル装備で外に出たけど、外は白かった。
「……ずいぶん朝霧が濃いな。どうする、レオ?」
「その分、向こうの監視の目を掻い潜れるんじゃね? 俺なら魔物の索敵ができるから、出発していいだろ」
白く煙る朝霧が深くて数歩先が霞んでるけど、足許は見えるから大丈夫だ。
俺、マリア、ベルナールの順で並んで森へ。
途中、キューズ付近の森と同じくホーン・ラビットやヴィラン・ディア、ボアの襲撃があったけど倒しながら進む。
ベルナールの目があるからスキル結晶は取り込めなくて、鞄行きだけどな……。
「歩いた距離からして、まもなく領境だ」
「レオのおかげで順調ですね」
「マリアの火魔法もなかなかだったぞ。また成長したな、レオもマリアも」
「おう、この調子で行こう」
「レオ、この辺から音を立てねえようにした方がいい。それに、マッド・ベアーも出るみてえだから、なるべくなら避けよう」
ほう。見たこと無え魔物だから興味があるけど、気性が荒い大型の魔物らしい。
咆哮や戦闘音がデカくなっちまうから避けた方がいいんだってさ。帰りに戦ってみてえな。
朝霧もだいぶ晴れてきたなか、慎重に足を運ぶ。
「あれか……」
「思ったより大きいね」
そんなこんなで敵さんの監視をすり抜けて、昼前にはロウブロー側の森を抜けてラボラット村の防壁が見える位置まで移動できた。
森を抜けた先の平原は深い草に覆われていて、緩やかに上り、小さな丘の上にラボラット村があった。
ベルナールが仕入れた情報によれば、門は北側に大門、南側に通用門があるそう。
こっち側は森に面してるからだろうか、防壁の外を歩く人影は無い。
砦の名残りの側防塔――見張り塔にも誰もいなそうだ。
「ひと休みしたら、姿勢を低くして草に紛れて近付くぞ」
「うっす」
「はい」
「うわぁ……」
丘を半分まで登ったかというところで、先頭を這い進む俺の鼻にニオイ。
一旦止まって、間を空けて続いて来てるマリアとベルナールに“来てくれ”と合図を送って待つ。
二人は俺のことを訝りながらも、音を立てないように合流してくる。
「どうした、誰か来るのか?」
ベルナールの囁きに首を横に振って応える。
人の気配なんか、森を抜けてからここまで感じない。
「死臭……人間が腐った臭いがする。これは防壁の中からだな」
“帝国”で嗅ぎ慣れた、でも出てからは久し振りに嗅ぐ死臭……。
それが――。
「なにっ!? 墓地でもあるのか?」
「いや……まあ、おっさんもマリアももう少し行けば臭ってくると思う」
なんせ――。
――かなりの数の死体が無きゃ出ないような臭さだからな。
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