第2章.父と子と“処分したはずのモノ”
47.キューズにて、平常運転だけど金がねえ!
※※※当面、水曜・土曜に一話更新します※※※
47.キューズにて、平常運転だけど金がねえ!
ファーガスっていう狼獣人の襲撃を退けた俺達。
奴はとある貴族に雇われて、キューズや領都オクテュスを治めるオクタンス子爵の領地を弱体化させる工作を幾つもしていた。
そして、マリアの家を崩壊させマリアを追い払った女の娘、義姉のブリジット。
そいつが家の没落後に娼館に売られ、巡り巡ってオクテュスで遊女ディアナとしてファーガスの相手をしていたところにマリアの姿を目撃して逆上。
ファーガスは『キューズの盾』に邪魔された怨みから、ブリジットは
元を辿れば俺が“帝国”を崩壊させたから、キューズの盾の皆にとっては完全な言い掛かりなんだけどな……。
みんな、ごめんな!
で、みんなでファーガスを相手にし、マリアの“大火柱”で弱ったところを俺が倒し、逃げようとして屋根から落ちかけたブリジットを確保。
ひっ捕らえたファーガスやブリジットはオクテュスの冒険者ギルドマスターに引き渡し、俺たちはキューズに帰った。
「レオ……ちょっと遠征に出せばこれかい」
「お前ぇら、なにかと巻き込まれ過ぎだ、レオ!」
一晩明けてギルドに顔を出した俺とマリアを、フレーニ婆さんとギルマスのベルナールが出迎え――待ち構えていた。
サブマスターの婆さんは、今日はギルドの制服姿で腰を曲げて細眼鏡を光らせている。
巨体に炎のように逆立った茶髪で、濃いまゆ毛と爛々と輝く眼を吊り上げているのはベルナール。
二人のそばには昨日合流してキューズまで来た『鮮血の斧』のリリーさん。
「べ、別に俺が起こしたことじゃねえしっ! 帰りはともかく、行きは護衛の仕事をしただけだし。な? マリア」
「はい。帰りは……」
マリアは昨日の帰路でも義理だかなんだか知らねえが、姉だっつうブリジットのことでみんなに迷惑をかけたって塞ぎこんでいた。
「あの村でのことは完全にファーガスと馬鹿女のせいだ。マリアが気にすることじゃねえし、俺が呆れられる筋合いのことじゃねえって。だろ、おっさん?」
「お、おう……?」
とにかく、リリーさんを含めてギルマスの部屋に場所を移して話を聞いたところ――。
領都に連行されたファーガスとブリジットは、これから領主様によって厳しく詮議・処罰される。
今回、二人の確保に貢献した『護衛依頼組』には、処罰等が全部済んだ後で褒賞が出るだろう。
――ってことらしい。
「褒賞はともかく、領都の娼館の破壊・足抜けや宝飾・服飾品の窃盗とか、“分かりやすい”犯罪はまだいいが……貴族同士の権謀術数が絡んでるっつうじゃねえか。こりゃあ、詮議以前の捜査が長引くかもしれねえぞ」
「うへぇ……」
金がもらえるのはいいけど、もらうのに時間が掛かるのはなぁ……まあ、待てるけどさ。
嘘!
俺は……俺たちは金が欲しんだ! すぐにでもっ!
なんてったって、マリアは
そりゃあ、途中で倒したヴァンパイア・ビーやクィーンの素材の分け前が護衛依頼の報酬以上にあって、正直ウハウハだと思ってたんだよ……。
でもっ! 盾や杖がぶっ壊れるなんてのは想定外だっちゅうの!
帰りの、あの村の――ファーガスの野郎の襲撃が余計だっちゅうの!
……高けえんだぞ、どっちも。
んで、それらを買うには報奨金が出るのを待つしか無く……。
俺の盾はともかく、マリアに長杖がないことには領都との間の護衛依頼も回してもらえなくて、キューズ近郊の依頼をちまちま受けるしか無く……。
「ごめんね、レオ……」
ここ何日か受け続けている依頼で、町の防壁に張り付いたスライムを不満たっぷりに雑に刺し殺し、奴らのスキル結晶を取り出している俺の背中にマリアの申し訳なさそうな声が届く。
振り返ると、ギルドで借りた訓練用の杖を胸元に抱え、俯いてるから綺麗な金髪で顔の隠れたマリア。
「なっ――べ、別にマリアが悪いワケじゃねえって!」
「でも……レオの盾だけなら、すぐに買えるのに……私の為に待っててくれてるんだよね?」
俺は、スライムのスキル結晶を手の平でジャラジャラいじくりながら“吸収”しつつ、彼女を
「いやいや、どうせなら二人揃って新しいモンを買えばいいじゃんか。待てば褒賞も出るんだしさ!」
マリアの言うように、俺たちが持っている金を全部集めれば俺の小盾だけは買える。現に、アーロンさんに貸して壊れた解体用ナイフは買い直しているし。
でも、小盾は宿代・飯代もひっくるめて掻き集めればギリギリ買えるって話で……。
マリア用の長杖は、高く付くけれどどうせなら堅い素材と“なんとか”っつう火魔法を補助する赤い宝石? を組み込んだ杖にしようって事になったから買えないのであって、俺も彼女も実力以下の盾や杖で良いんならすぐに揃えられるんだ。
そんなことを考えていると――。
――【自然回復】が貯まりました。【急速回復】に進化します。
おっ!? 久々に『進化』っつうのが聞こえた!
どんな魔物も持っている【自然回復】だから、進化も早いな。
傷の回復が早まって戦いやすくなるぜ。
とにかく、盾や杖を揃えられないのはマリアのせいじゃないってことと、待っていれば解決するってことで彼女を励ましてスライム駆除を続けた。
そこから更に何日か街なかの依頼をこなしていたら――。
「おう、オメェら! 領主様からの通達で、オメェらへの褒賞授与が決まったぞ」
ギルドの受付をうろうろしていたら、上に続く階段からギルマスのベルナールが顔だけを覗かせて呼び掛けてきた。
ちょっ……他の奴らに聞こえるじゃねえかよ!
でも……“帝国”の件の時はもう少し待った記憶があるけど、今回は以外に早く決まったな……。
『お前が大人しく捕まって領主様のお調べに正直に答えて、雇い主のことも隠さねえで話すってんなら……コイツ(モモンガ獣人)を逃がしてやってもいい』
ファーガスの野郎、俺との約束をちゃんと守ったみたいだな。
「領都――オクテュスの城に参じて、領主様に謁見して、そこで直々に授与下さるそうだ」
マリアと一緒にベルナールの部屋まで行くと、そこには同じく対象者である『キューズの盾』のクレイグも代表して来ていた。
「マリア、『さんじて』ってなんだ?」
「お城に『行って』ってことよ」
「じゃあ、『えっけん』って?」
「ご領主様に『会って』ってことよ」
「『じきじき』は……直接ってこと?」
「そう」
「『じゅよ』は、貰えるってことか?」
「……う、うん」
ベルナールの畏まった言葉が分かりにくくて、こそこそとマリアに教えてもらう。
ふむふむ。金(褒賞)を貰うには、領都まで行って、城で領主に会って直接貰わにゃならんのか。
「…………はあ?!」
領主様に謁見して直接授与だとぉ?
うげえ……面倒くせえ。
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