風のたまご
風によって雲は流れる。鳥は空を飛び、花々の種や生き物の命を運ぶ。誰かの思いや強い願いもエネルギーとなり風に乗る。
風の精霊たちの役目はそこにある。この森に邪なモノが入り込んだとしても、その気配を敏感に察知して知らせてくれるはずだ。
だから彼らの職業が「賞金稼ぎ」だと知った時も、それほど警戒する気持ちはなかった。
あちらにしてみても、状況的に子供を連れ去る人間だと思われても仕方のない僕達に、感謝さえしてくれたのだから、この森の信頼は厚いのだと思う。
いつまでも「恐ろしの森」だと思われてなくて良かったね、お師匠さま。
「俺はジャンゴ。こっちは女房のヒルダ。シャーリーは、もう分かりますね。さっきは本当にありがとう」
大きな男はシャーリーの丸い頬を愛おしそうに撫でながら、自己紹介した。シャーリーもくすぐったそうに身を捩ってクスクス笑っている。
「パパ、レピって王子様みたいなのよ。お花をくれたの」
「ああ、綺麗だな」
「ほんと、素敵ね」
僕も自己紹介して仲の良い親子を微笑ましく見守っていると、後ろにいるディルが何か言いたそうにモゾモゾ動いている気配を感じる。「レピ様は本物の王子なんですよ!」とか言うんじゃないだろうな?
思わず振り向くと、ディルは何故か頬を染めて、ジャンゴを熱心に見つめていた。んん?何この乙女みたいな顔。
「あの……もしかして、ジャンゴさんて、
「懐かしいな、その名前」
「やっぱり!」
勢いよく前に進み出て来たディルは、ジャンゴさんの空いてる方の手を両手で取って興奮したようにぶんぶん振った。
「俺、あなたの大ファンだったんです!いつか一緒に仕事したいと思ってたのに、引退されたって聞いて本当に残念で……!」
「あ、ああ……ありがとう……?」
ディル……残念なのは君の方だ。ジャンゴさんだけじゃなくて奥さんもシャーリーも、マイノまでドン引きしてるじゃないか。ついでに言えば僕も。
ディルが支離滅裂気味に捲し立てるのをまとめると、ジャンゴさんは幾つかある傭兵団に所属していた一人で、伝説級に強い人物だったらしい。
その剣技は風を呼び、大弓は
ディルは少年のように目を輝かせてジャンゴさんを褒め倒している。強い者に憧れるのは分かるけど、そういうところが女の子にモテない原因なんじゃないかな。
いつまで経っても話が終わりそうにないので、僕はこっそり後ろに下がり、みんなに声を掛けた。
「僕はそろそろ行くよ。ディルもジャンゴさんのお邪魔にならないようにね」
「あ、はい!すみません、レピ様」
「ここで様付けはやめてよ……」
空気読んで欲しいな……。ほんとそういうところだよ。
もう一度ジャンゴさん達にお礼を言われ、僕は騒がしいディルから逃れるように森の中へ戻って行った。
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