絶対にデレない大学1の美少女はかつて恋人をNTRれたらしい。〜不良から助けたのをきっかけに重めの甘デレ始めました〜

ゆきゆめ

Ⅰ.絶対にデレない美少女を助ける

第1話 大学1の美少女

 大学生になってから、早くも1年以上の月日が流れた。


 辛かった受験勉強の日々がウソのように楽しいことばかりの夢のキャンパスライフ。友達たくさん。毎日サークルに飲み会で宴会騒ぎ。初めての彼女もできて、あんなことやこんなことも経験しちゃって、人生ウハウハ————なんてことを考えていた時期が俺、八城飛鳥やしろあすかにもありました。


「彼女なんてできるかボケェェェェ!!」


 講義前の教室の最後列で叫ぶ。

 学生たちの奇異の視線が一斉に寄せられるが構うことなどしない。


 そこのおまえも、あっちのおまえも、みんなカップルで席どりしやがって!いいよなぁ勝ち組はよぉ!!!!


「あーあー荒れてるねぇ、飛鳥」


 講義室へやって来た友人の佐久間翔さくまかけるが呆れた様子で声をかけてくる。


「今、この大学における俺のあだ名を知ってるか」

「合コンゲロ太郎?」


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!(ブチブチブチィッ)」


 発狂して髪を引きちぎる。


 先日、俺は通算n回目の合コンに参加した。今回こそ彼女をゲットしようと気合を入れて、お酒をガバガバ呑みながら女の子を口説いた。


 結果、匙加減を間違えた俺は見事、お目当ての女の子に狙い撃ち♡で嘔吐したというわけだ。

 合コン会場はまさに阿鼻叫喚、死屍累々の地獄絵図。

 後には女の子から往復ビンタを受けた俺だけが残ったという。


 そのウワサはあっという間に広がって、俺のあだ名は「合コンゲロ太郎」に決定した。


 死にたい。いっそコロシテ……コロシテ……。


「あー、週末に合コン組むけど、どうする?」

「行くと思うか?」

「ほら、お酒は控えめにしてさ。それなら大丈夫でしょ?」

「呑まなきゃ女の子となんて話せないだろぉ!?」


 童貞舐めんなコラ。


 ちなみに翔は学内でもかなり人気の金髪イケメンだ。いい奴だけど、女性関係は非常にダラシない。顔面引っぺがして俺のと交換してやりたいくらいには妬ましい。


「もう合コンには行かん」

「それは残念」


 涼しい顔で翔は両手を仰ぐ。 


「そもそも合コンに来る女なんてのはなぁ、みんな等しくビッチなんだよ。そんなやつらはこっちから願い下げだね」

「それなら合コンゲロ太郎的にはどういう女性がいいの?」

「その名を呼ぶなあぁぁぁぁぁぁああああ!!(ブチブチブチィッ)」

「ごめんごめん。これ以上は禿げそうだからやめておくよ」

「禿げてないが!?(ブチブチブチィッ)」


 髪の話をするんじゃあない。うちの家系は父方が薄いんだ。怖くなるだろうが。抜いた分は後でくっ付けておくとしよう。元通りで安心だ。


 翔に「それで?」と質問の回答を促される。


「そりゃまぁ……身持ちの固い女性がいいよな。大和撫子たるもの慎み深くなくてはな」


 処女ならなお良い。おじさん、にっこり。


「たとえば夜噺逢奏よばなしあいかとか?」

「うむ」

「それはなかなかに厳しい道のりだねぇ」


 夜噺逢奏よばなしあいか。俺たちにとってはひとつ年上の先輩にあたる。

 通称、絶対にデレない女。

 大学1の美少女との呼び声も高い彼女であるが、男に媚びないことでも有名だ。

 どれだけの男どもが彼女をデートや飲み会、合コンに誘ったことかわからないが、その全てが拒否されている。

 ナンパ成功率ゼロ%。

 まさに身持ちが固すぎる大和撫子。


 俺にとっては、理想の女性と言えるのかもしれない。


 しかしその一方で、どこか学外に彼氏がいるのではないかという噂もある。

 なぜなら彼女の左薬指には、指輪がはめられている。

 それがエンゲージリングにしか見えないとまことしやかに囁かれ、多くの男子諸君の脳破壊が進んだ。 


「はいはい、自分の身の丈くらいわかってますよーだ」


 とてもじゃないが将来ハゲ確率50%の俺じゃ釣り合わない。指輪の話だってある。


 だから、合コンゲロ太郎の青春はもう終わったんだ。

 女性と交際歴がある人間のうち、実に9割以上が24歳までに初の彼女を作っていると言う。

 このまま大学卒業したが最後、恋人を得られる可能性はかなり低くなる。


 残された道は、職場でえっちな女上司を引き当てるくらいしかない……!!


「はぁぁぁぁ…………もうダメ。俺の人生オワタ。もういっそ春を売ってもらおうかな……翔ぅ、いいとこ知らない? 金ならあるだけ積むよ」

「そっちは僕も詳しくないなぁ」


 ですよね。相手に困ってないもんね。クソがッ。


「まぁまぁ元気だしなって。飛鳥はまだ、出会えてないだけさ」

「出会えてない?」

「そうそう。たとえば夜噺先輩とだってまだ話したこともないわけじゃん? それならもしかする可能性はゼロじゃない。でも、ここで諦めたらゼロになっちゃうからさ」


 翔は優しい笑みを浮かべて、俺の肩を叩く。


「大丈夫。諦めなければきっといつか、飛鳥の良さをわかってくれる人に出会えるよ。だって飛鳥は、意外と凄いやつなんだからさ」


 やばい、惚れそう。

 こんなことをいい笑顔で言えるから、この男はモテるのだろう。


 そして翔の言う通り、諦めるのはまだ早い。

 大学生活だってまだ2年以上ある。

 諦めるのは、ぜんぶやり尽くしてからだ。

 それでダメだったら風○に行く!!


「じゃあさっそく俺好みの女の子紹介してくれ」

「僕が味見してからになるけどいい?」

「そういうのが俺は一ッ番、嫌いだッ!!(ブチブチブチィッ)」

「だよね」

「童貞の心は非常にナイーブなんだ。長年愛用しているオ○ホールのように優しく扱っておくれ……」


 しかし勇気はもらえたような気がする。

 俺は改めて、翔にお礼を言った。


 講義が終わって昼休みになると、翔とそろって食堂へ向かった。

 席を取ってから行列に並ぶ。


「お、噂をすればだね」


 翔が指し示した先には、夜噺先輩の姿があった。

 凛とした表情で黒髪を揺らしながら歩く姿は、それだけでもうっとりするほど美しい。

 ボッチ席を陣取ると、行列へ加わることなくそのまま着席してお弁当を取り出した。見たところ、お手製のようだ。女子力。素晴らしい。


 ボーッと見つめていると、例によって陽キャっぽい男子学生が夜噺先輩へ話しかける。

 しかし相変わらずと言うべき塩対応をかまされたらしく、すぐに消沈した様子でトボトボと引き上げた。

 去年からたびたび見かける日常風景だ。


「そういえば、翔は夜噺先輩にアタックしないのか?」


 ふと、そんな様子を見せたことがないなと思って問いかける。


「ないない。彼女はいわば芸術作品。鑑賞させてもらえるだけでも最高の贅沢だよ」

「まぁ分からんでもない」


 翔をもってそう言わしめるあたり、彼女はやはり他とは一線を画すレベルの美少女であり、雲の上の存在ということなのだろう。

 

「飛鳥が本気でナンパするって言うなら、手伝ってみてもいいけどね」

「誰がおまえとコンビでナンパなんてするか」


 たとえ成功してもそれは間違いなく翔目当てじゃないか。俺は当て馬じゃい。ヒヒーン。どうせなら競走馬になって活躍したのち、気ままな種付けライフがしたい。


「じゃあひとりで行く?」

「……やめとく」


 態度を見ていればわかる。

 現状ではどんな男だって、彼女に受け入れられることはないだろう。


 彼女は相手の顔や性格、会話内容なんか考慮していない。ただ、最初から拒絶することを決めている。俺にはそんなふうに見えるのだ。


 たったひとりで黙々と食事を続ける大学1の美少女は果たして、孤高か、孤独か。

 それは誰にもわからない。

 


 ☆



 講義を終えて放課後。

 バイトがあるという翔と別れ、俺は直帰しようとキャンパスを後にする。


「だから、行かないっていってるでしょう?」


 突如、少々イラついたような女性の声が耳に届いた。


「ねぇいいじゃん? 1回だけ。1回だけだからさ? 行ってみたらきっと楽しいぜ?」


 続いて軽率そうな男の声。


 見れば、話題にしたばかりの美少女、夜噺先輩が絡まれていた。

 

 またしてもナンパか。今日は2度目だ。


 しかし今回は雲行きがよろしくないように見える。夜噺先輩の声にもあまり余裕が感じられず、荒々しい。

 さらに男はどうやら同じ大学の学生ではなく、街の不良のようだった。 


 ちらほらと目につく下校中の学生たちもそれをわかっているのだろう。遠巻きながら不安げに見守っていた。中には警察を呼ぼうとしている者もいる。


「いい加減にしてっ。しつこいわよっ」


 それでも毅然とした態度を崩さない夜噺先輩だったが、むしろそれが癇に障ってしまったのかもしれない。

 

「ちっ」


 胸糞が悪くなるような重い舌打ちがあたりに響いた。

  

「……このクソアマが。下手に出れば調子に乗りやがって。女は黙って男の言うこと聞いてりゃいいんだよ! オラ、来い!」

「ちょっ、なに————」


 逆上した不良が夜噺先輩の手を掴もうと手を伸ばす。


「おい————その人に触るな」


 寸前、割って入った俺は男の手首を強く握り潰していた。





〜〜〜〜〜〜〜〜




基本的に甘々なラブコメ。

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