絶望

 五月。高校に入学し、一ヶ月が経過。


「名前は一条いちじょうなのに、万年二位」

 誰が放ったかわからない台詞が、頭から離れない。まさか、うえに存在しているものがあるなんて、予想だにしていなかった。

(『万年』って、いつから二位なのよ……)

 初めて順位表を見たいという欲求が湧き、張り出されている場所に急ぐ。


 上にある名前は、結月ゆづき陽菜ひな


 1 結月ゆづき陽菜ひな 500点

 2 一条いちじょう羽菜ハナ 499点


 たった一点の差。そう解釈する人は居るかもしれない。けれど、羽菜ハナにとっては雲泥の差。

 陽菜ひなは満点、羽菜ハナはミスをした。


 いつから一位でなかったのか。調べたところで、確定した過去を変えることは出来ない。

 今までも、誰かに抜かれるような点数を取った記憶は無い。それでも、万年二位と言われるということは、陽菜ひなは常に満点を取っているということ。


 許せない――。

 上に名前があることで、これほどまでに不快にさせられるなんて知らなかった。上に何個あるかではなく、存在すること自体が不快。


  * * * 


 うえには、また結月陽菜の名前がある――存在を確認して以来、何一つとして勝てたことがない。

 陽菜ひなの外見は地味だから、運動でなら勝てるとたかを括ったけれど、それも敵わなかった。


 陽菜あいつさえ居なければ良いのに――願ったところで状況が好転することはない。

 敗北を繰り返す度、意欲を喪失。何も手に付かなくなり、努力しても無意味と思うようになる。


  * * * 


 3 一条いちじょう羽菜ハナ 491点


  * * * 


 7 一条いちじょう羽菜ハナ 487点


  * * * 


 13 一条いちじょう羽菜ハナ 479点


  * * * 


 順位は急降下。以降の順位は不明。順位が二桁になったのを最後に、順位表を見ていない。

 二位以下は全て同じだと思っていたけれど、全然違った。堕ちる度、世界の終わりのような、激しい絶望感に襲われる。


 自暴自棄になり、常に苛々するだけの毎日。この先ずっと、無意味に時間を潰すだけの日々が続く――考えるだけで億劫おっくう

 刺激の無い日々が、時の流れを早く感じさせる。つい最近入学した気でいたけれど、瞬く間に三ヶ月が経過していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る