第54話

「……わかった」


 モートは、ゾンビ化しているので、誰が誰だかわからなかった。なので、お爺さんの服装や身長をしているゾンビだけを狩ることを止めた。

 

「ああ! モート! ゾンビだからわからないのよね! 私の部下には向いのお爺さんはわかるから、そのゾンビだけ残して、どうでもいいゾンビじいさんは撃たせているわ! だから、モートは他を退治して!」


 黒いスーツの男たちのトンプソンマシンガンの弾丸は、当然モートの身体を貫通していく。弾が体内を通っていってもモートは平然として、ゾンビを狩ることに専念した。


 やがて、一体のゾンビだけ残して、汚れた血と肉塊だけが残った。


 未だ空から赤黒い雹が地面へ降り続け、幾本もの落雷がホワイトシティの至る所へと落ちていった。空も地も血の臭いを乗せた赤黒い風が舞っている。


「ああ、あなたはモートよね! 幻なんかじゃないわよね! それなら本当に良かったわ! 突然、赤黒い雹が降って、アリスの無事も確認できぬまま。もうこのままだと、私たち駄目かと思っちゃってたのよ。死んだら、そこらのゾンビと一緒に、イーストタウンをアリスと一緒に買った服がボロボロになるまで、さんざ歩き回るんじゃないかと思ってたわ」


 平屋建てのベランダまで、もう安全だと思ったのか、シンクレアが飛び出してきた。


「ねえ、モート……アリスは無事? 無事よね? そうよね!」

「ああ……」


 モートは少し、元気そうなシンクレアを見ていると嬉しくなった。


「シット! 姉さん! 静かにして……まだゾンビがスラム街から歩いてくる音よ」


 さすがにミリーは、ベランダへ出ても辺りを警戒して、聞き耳を立てていた。


「シンクレアとミリー……。 早くノブレス・オブリージュ美術館へ行ってくれ! その人達も連れていっていいと思うから。ヘレンには後で言っておくよ」


 モートはこちらをトンプソンマシンガンを構えて、慎重に伺っていた真っ黒なサングラスをしている黒いスーツの男たちに、コクリと頷いてやった。


「では、ミリーお嬢様。ノブレス・オブリージュ美術館まで行きましょうか」


 黒いスーツの男の一人が言うと、他の男たちもぞろぞろと、一人。また一人と、平屋建てへ戻り出した。

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