第31話

 雑踏が激しくなって来た。時刻12時45分を指した頃にセントラル駅がラッシュアワーとなった。


 アリスは混雑した人混みの中でポニーテイルの金髪の少女を探した。背丈はアリスよりは少し低い方だ。


 アリスはセントラル駅でクリフタウン行きの切符を買ってから、改札口でシンクレアに「グレード・キャリオン」には行けないけど聖パッセンジャー・ビジョン大学付属古代図書館には行くからと告げ頭を下げて、ぶつかった少女を探していた。


 しばらくすると少女は見つかった。白線の内側に一人ポツんと立っていた。アリスが少女に行き交う人々を避けて近づくと、ヒルズタウン行きのローカル線が来てしまった。


 少女が乗車したので、アリスも急いで乗った。


「ちょっと待ってーーー! アリス!!」

 

  ローカル線の中にシンクレアが駆け込み乗車をしてきた。車内で周囲の人の心配そうな視線が即座に向いた。だが、その中で一人だけ真っ白な顔の男は訝しむ目をしていた。

 

「さっき、この駅にモートがいたの」

 シンクレアは荒い息を整えながらアリスに言った。


「そしたら、ここは危険だからアリスの傍にいてくれって……狩りの時間だって」 

「あら。そうなの……私は今、さっきぶつかった少女を探しているの」


 ガタンッと、ローカル線が発進した。


「ええ、そんなことはわかるわよ。この駅の車掌に兄のケビンがいるから聞いたのよ。きっと、その少女はヒルズタウンの観光名所に行こうとしているんじゃないかって」

「うん。それなら、きっと景色が良い窓際にいるわね」


 アリスはシンクレアの話から推理した。

 観光目当てなら景色を見るはずだし、それならば窓際にいるはずだ。 


「あら?」


  一人だけ真っ白な顔の男がアリスへと音もなく近づいてくる。不思議な事にその男の周りだけこのすし詰め状態の中で乗客がいなかった。いや、円を描くようにその男の周りに人が入れない空間があるのだ。と、突然。


 黒き巨大な馬がローカル線の床から現れた。


 男は馬に乗ると「その時がもうすぐ来るんだ」と言い残し、電車の窓を突き破り飛び立った。

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