第15話 mansion (屋敷) ヘレン編

 ヘレンはノブレス・オブリージュ美術館のオーナー室で、モートの帰りを待っていた。オーナー室の暖炉の薪がないことに気付いたが、それでも、どうにも落ち着かないので、寒いのをそのままにしていた。


 部屋の寒さが限界まで来てしまってブルブルと震えていた時。オーナー室の電話が鳴った。ヘレンは受話器を取ると、相手は聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館の館長だった。ヘレンは古代図書館の館長とは懇意の仲だった。


「やあ、ヘレン。ちょっと聞きたいことがあるんだが……また奇妙な男がレファレンスルームから本を一冊借りていったんだよ」

 ヘレンは耳を疑った。

 レファレンスルームの本は貸し出し厳禁だったのだ。


「借りた男の名はジョン・ムーアだそうだ……」


 ヘレンはそれを聞いて卒倒しそうになったが、詳しい事情を極力耳に集中して聞いた。


「それ、本当? アーネスト?」

 アーネスト・グレグスン。それが聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館の館長の名前だった。 

「ああ……これは言わないでおこうと思ったんだがね……ついでに紙切れを受付に置いていったんだよ。「その時がもうすぐ来るんだ」って書いてあったって受付の女性が言っていた……何のことかさっぱりわからないが。いやはや、なんだか不吉な男だねえ」


「ジョン……。またあなたなの……何故……」

「え? なんだって?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る