第57話 次への序章

 「D-3Fブロック第4(最終)レース実況掲示板Part6」


14:名無し観戦者

リイナ敗退確定

やっぱりたいしたことなかったな


15:名無し観戦者

リイナの敗因は一条を抜こうとしたこと

3位以上なら勝ち上がり確定なんだから、1位を狙う必要なんてなかった

一条から距離をとり続けて3位に収まってればよかったのに


16:名無し観戦者

逆走後で完全に差が出たね

同じ位置からスタートして、一条はギリギリ1位、リイナはギリギリ4位


17:名無し観戦者

一条も配信始めてくんないかな

リイナは速くてD-1に行きそうだから見てたけど、一条のが抜群に速いし


18:名無し観戦者

今日のレースで戸貝リイナの底が見えたな

仮に今後D-1に上がれたとしても、一条には勝てないだろう



……




32:名無し観戦者

一条、途中で運転交代してたらしいぞ!


33:名無し観戦者

>>32

マジ?

そうは見えなかったけど


34:名無し観戦者

>>33

赤居の配信に声が入ってた

体力温存のために代わってたらしい


35:名無し観戦者

一条いわく「逆走後の差は体力の差でできたもの」らしい

赤居の配信にチラッと映ってたけど、確かにリイナはレース後、独りで立つこともできない感じだった


36:ヨーソロー@D-1出ますシクヨロ!

どれくらいの間交代していたかはわかりませんが、体力温存はかなり意味がありますね、機体に与える魔力の大きさに影響します

一条が最終ラップで今までに無いほどの速さを出せたのは、体力温存あってこそ、の可能性は高いです


37:名無し観戦者

それに対して、交代無しで食らいついてたリイナって、ひょっとしてすごいのか・・・?


38:名無し観戦者

そもそも4周目の後半で逆走させられて、最終ラップ目前に最下位近くまで落とされた時点で普通は心折れるよな

そこから4位以上まで追い上げたんだから、一条もリイちゃんもどっちもバケモンだ


39:名無し観戦者

リイナはこれからに期待だな

D-3敗退チームでも、速いレーサーはD-2開始までに引き抜きのオファーが来る

個人的にはリイナは一条のチームに入ってほしい


40:名無し観戦者

>>39

それは同意

一条とリイナが交互にレース出れれば隙の無いチームになる


41:名無し観戦者

>>40

それいいな

一条と雪野アズサ、リイナとナコの2組で4レースを回してけばいい

雪野と一緒に暴走しただけの加賀美はいらん


42:名無し観戦者

>>41

あの第3レースのせいでチームの印象も悪くなったし、加賀美は確かにいらないな

雪野は暴走することがあったとしても、優秀なガンナーだから必要な戦力

打開頼りなうえ、雪野を制御することもできない加賀美は不要




 ……




 加賀美かがみレイは、スマートフォンの画面を見ることをやめ、端末をポケットに突っ込んだ。


 ――俺の評判は、それでいい。今の俺には、妥当な評価だ。


 チームは、上位リーグへの切符を勝ち取った。

 だが、それに対して自分が貢献できた部分は少ない、とレイは分析していた。第3レースで1位を取れたことも、自分の中では全く評価していない。いや、評価してはいけない、とレイは考える。


 ――雪野が機体に乗ってくれて、協力してくれるきっかけを作ったのは俺……なんてのは、結果論だ。そもそも、第3レースで窮地を招いたのは、俺だ。




 レイが現在いる場所は、彼がをつけるために、自分から訪れた場所だ。


 「チーム望見のぞみ」で自分が犯したことに対してのけじめ、だけではなく。

 そもそも、との関係を絶たないまま、チームに誘われるがまま加入してしまった、甘えた自分に対する、けじめ。




「勇気あるレーサーの皆さん。“神隠しレース”へ、ようこそ」




 場内アナウンスから、上品な男性の声が、レイ達レーサーに語りかける。


 この「地獄のレース」に参加する、不運なレーサー達に。




「本レースは、、配信でも楽しまれています。自ら参加を望んだ勇者チャレンジャーも、図らずも参加させられてしまった悲劇の主人公ヒーローも、張り切ってレースに臨んでください」


 レイは、隣の機体を見た。

 コクピットの中で、女性レーサーが震えている。


「ルールの確認です。レースは8機でおこないます。上位4機は、次のレースに進出ができます」


 レイは、今回のコースの全容を魔力レーダーで確認しながら、アナウンスに耳を傾ける。

 今回は、短めのコースを5周する構成のようだ。




「5位以下の方には、。だから、“神隠しレース”」




 レイは、チームに誘われたときの、一条いちじょうソウとのやり取りを思い出した。




雪野ゆきのは嫌らしいけど、お前は、うちのチームに来てくれる?』

『いいけど……なんで俺? 雪野アズサと俺って、能力的に全然違うだろ? ……あ、ぽ、ポテンシャルで言ったら、大して変わらんがな!』

『オレ達は大企業の所属レーサーになれない以上、常にチャレンジャーなんだよ』

『えっ?』

『レースの世界で生き残れるかどうか、から始まって、どれだけ名を上げられるか、まで。だから、どんな強者相手でも、怖じ気づかずに戦う勇気のある奴がほしい。お前は、勇気無いの?』


『まさか! 勇気バリバリよ!』




 ――俺は、あの時の言葉も嘘にするつもりはない。




 ――俺は今日、この“闇の組織”から自由を勝ち取って、闇の世界と決別する。そして、あいつらの本当のチームメイトになる……!




「すべてのレースを勝ち抜いた方には、『このレースに関する一切の他言をしない』という制約のもと、自由か権限、好きな方を与えましょう。さあ! 機体のエンジンを始動させてください」




 レイは、一人きりのコクピットで、エンジンを起動した。




「それでは、さっそく運命のレースの、カウントダウンを始めましょう!」







 このレースを皮切りに、多くのレーサーを巻き込んだ一大騒動が始まることになる。

 この場にいるレーサー達には勿論、まだ知る由も無いことだ。

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