第53話 最速の男の作戦全貌

 一条いちじょうソウと、助手席の望見のぞみニナは、ピットイン時に相談し、用意していたとっておきの作戦を、実行に移すことにした。


 それは、ピットイン後、


 ピットイン後、4周目の後半、経路短縮ショートカット手前の直線でナコに“迎撃ミサイル”を撃たれるまで、


 当然、この作戦のため、ニナは何日も前からコースを走る練習をしていた。だがそれを考慮しても、ピットイン後から再度の交代まで、運転者がニナであると悟られず、狙撃スナイプされることなく走り抜いたのは、ニナの大金星と言える。


 再度、ソウに運転を代わったのは、ソウとの共同操作でエンジンを停止し、“消失ゴースト”を発動した直後。

 エンジン停止の一瞬でニナが運転席を離れ、ソウが席に着きながらハンドル制御をし、エンジンを再始動させる。

 非常に高難度だが、ソウの精密かつ柔軟な動きをもってすれば、不可能な動作ではない。




 ここまでして運転を交代した目的は、「ソウの魔力の温存」だ。


 機体は、運転者の魔力を吸いつつ走行する。速度を上げるほど、運転者の魔力負担は大きい。

 特にソウ達の機体は、機体の吸う魔力量が尋常ではない。

 このことは、D-3エキシビジョン直後にソウが倒れたことからもわかる。

 常人並みの魔力しか持たないソウが、レースの全てを全力で走れば、命に関わるダメージを負うことになる。


 だから、途中でニナに走ってもらう。そうすることで、再度の交代後はレース終了まで、全力で走ることができる。




 それよりも肝を冷やしたのは、その後の動きだった。

 なんとかリイナの機体を誘い出し、経路短縮ショートカット出口の前で横並びの状態に持ちこんだ。そこで横から体当たりし、“大加速ブースト”を使うことで、リイナ達と一緒に経路短縮ショートカット


 経路短縮ショートカットの空洞内は細道だ。少しでも操作を間違えれば壁にぶつかって大破クラッシュ、あるいは、リイナ達の機体との強い接触により大破クラッシュ

 

 リイナ達の機体と速度を合わせ、一定の位置関係を保ったまま、空洞内を逆走する。

 最初の“大加速ブースト”の勢いが収まり、徐々に2つの機体は速度を落とし、ゆっくりと空洞内を逆走する。




 空洞を抜けてコース内に戻ったとき、ソウ達とリイナ達は、ほぼ最下位になっていた。


 逆走の効果は、コースをやり直しにさせたこと、よりはむしろ、最下位近くまで順位を落とせたことにある。




「いい具合の結果だ」

 ソウは、レーダーを見て、想定通りの結果に拳を握った。

 現在1位の赤居あかい祐善ゆうぜんとは、約半周の差。


 ――ギリギリ、まくれる距離差だ。


 そして、自分たちと一緒にコースを逆走した、リイナ達の機体を見る。

 まだ、機体をうまく制御できておらず、その場でふらふらとしている。


 急なトラブルに対する動揺か、それとも……




 いずれにせよ、途中で魔力を温存できたソウとは違い、既に魔力の限界が近づいているリイナは……




「……ゴメン」


 呟くと、ソウはニナの方を振り向いた。


「ニナ」


「な、なに?」

 ニナは、心配そうにソウの顔を覗き込む。

 これからソウが、当初の作戦以上の無茶をすることに、既に気付いているかのように。




「レース終了までは、絶対に走り抜く」




 ソウは、“大加速ブースト”を使い、一気に最高速まで速度を上げた。




「そのあとオレがぶっ倒れたら、後は頼んだ!」







<“D-3リーグ”Fブロック最終レース 現在順位(括弧内は所属チーム)>

1位 赤居祐善(アカガメレーサーズ)

2位 村道みのり(お茶の間親衛隊)

3位 メイス(シャドウズ)

4位 コウテイペンギン(動物園)

5位 佐東陣(ハバシリBチーム)

6位 儀棚友和(千種食器)

7位 ドン(お笑いの走り手達)

8位 二船佐恵(グラビアレーサーズ)

9位 一条ソウ・望見ニナ(チーム望見)

10位 戸貝リイナ(Dan-Live A-Team)

11位 なんだかなあ(言葉遊びレーサーズ)

リタイア(機体大破) 景谷尊号(ニードルズ)

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