第41話 最強ガンナーによる壊滅作戦
想定外の事態に、
「裏掲示板の指示通りにメチャクチャやる」という蛮行でチームから追放される、という計画だった。しかし、チームメイトの
おまけに、新たなチームメイトまで姿を現してしまった。
「ここまで来たってことは」
一等最初に、ソウが
「乗る気になった?」
「本当は乗るつもりは無かったんですが」
雪野は、冷淡な視線をレイに送る。
「あなた達がここで見苦しく口論する姿が、観客席からも見えてしまったので」
「別に口論はしてなかったけど?」
「とにかく見苦しいんです」
雪野は松葉杖で立つソウの横をすり抜け、レイの脇を通り過ぎ、レイの機体の
彼女は、背中に背負っていた大きなリュックを、
「これに乗ればいいんですよね?」
「いや、まだ
ソウが答える。
「加賀美は『ニナとしか乗らない』って言ってるし」
「いや、それは……」
レイは、返答に困ってしまった。
彼がチームを抜けようと思っていたのは、彼がレースに出ることでチームが負ける、そして信頼を失う、という、およそ確定した未来を恐れての考えだった。
雪野アズサと、伝説のレーサー“
レイにとって、これは想定外の事態だった。
「何が怖いんですか?」
雪野は、困って眉を変に曲げているレイを見て、鼻で嘲笑した。
「私が乗ったら、敵の攻撃は全部撃ち落とします。もちろん、“
「ゆ、雪野さん、そんな言い方しなくても……」
ニナが、いつもの震え気味の声で心配そうに言う。
それを聞いて、雪野はフン、と、もう一度鼻で笑った。
「臆病者なんですね、加賀美レイさん」
「乗るよ」
レイは、雪野の挑発に我慢できなくなった。
と同時に、安堵もしていた。
――散々「ニナとしか乗らない」と言ってきたのを撤回する理由を、雪野が作ってくれた。
――裏掲示板の奴らが、脅しの通り俺の蛮行を表沙汰にしたって、きっとソウやニナは、俺を追放なんてしない。
長いピットインが終わり、雪野アズサを
「ライフルは使わないのか?」
機体に乗せたリュックを開けず、
11位と差のついた最下位になってしまったが、やることは変わらない。さらに、他の機体はこれからピットインするから、差はじきに縮まる。そんな余裕から、レイは雪野とのコミュニケーションに意識が向かっていた。
「ええ」
雪野は、短く答える。
「ライフルは、“雪野アズサ”の象徴ですから」
「……どういうこと?」
レイは、雪野が言っていることの意味がよくわからなかった。
「チーム名に名前が入っていても、偽名の可能性があります。でもライフルを使ってしまったら本人確定なので、“雪野アズサ”の名に傷がついてしまいます」
「いや、だから、どういうこと?」
せっかく
「チームから追放されたいんでしょ? 実は私も、同じ事を考えていたんです」
雪野は
基本武装<
機体から発射された魔力弾が直線状に飛び、敵機を攻撃する。魔力弾はしばらくすると威力が減衰し、やがて消滅する。
コース端の壁に張られた魔力バリアに触れると反射する。
自機にぶつかれば当然、自機が損傷する。
「わああっ!?」
レイは情けない声を上げながら、自機の“
「何するんだよ!?」
「チームの一人が失態を犯しても、それを世間は『個人のミス』と捉えます。チームそのものの評価は、思うほど下がりません」
雪野は、笑みを浮かべながら横目でレイを見た。
ピットでの会話の時よりも、遙かに底意地の悪い、嘲笑に満ちた目で。
「ところが、二人以上がおかしなことをし始めると、途端に雰囲気が変わります。『チームに何か、問題があるんじゃないか?』と」
雪野は、スイッチを2回連打した。
発射された“
どうしていいかわからないレイは、そのまま2発の“
「さあ、二人でレースをメチャクチャにしましょう。大丈夫。責任は全部、チームが取ってくれます」
魔力弾を受けて、大きく揺れる機体の中。
視点が定まらずめまいがする中、レイは雪野の声を聞いた。
「公式のブラックリストに入れられて、チームは壊滅」
鼓膜に響くは、機体の揺れる轟音、遅れて鳴る魔法攻撃
「追放されなくても、チームの方が無くなってくれますよ」
<“D-3リーグ”Fブロック第3レース 現在順位(括弧内は所属チーム)>
1位 ローデス(Dan-Live A-Team)
2位 ゴリラ(動物園)
3位 緑川快(アカガメレーサーズ)
4位 片岡栄吾(ハバシリBチーム)
5位 戸倉洋二(千種食器)
6位 山坂まこ(お茶の間親衛隊)
7位 鷹野美宇(グラビアレーサーズ)
8位 キング(シャドウズ)
9位 あるいはなあ(言葉遊びレーサーズ)
10位 ちゃっす(お笑いの走り手達)
11位 棘野順二(ニードルズ)
12位 加賀美レイ(チーム望見)
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