第37話 様子がおかしい

「じゃあ、行ってくるよ」

 宣言通り、加賀美かがみレイは機体に乗り込み、レースへ出陣しようとする。


「おう」

 一条いちじょうソウは、それを見送った。

「整備は任せとけ」

 加賀美の隣に座るニナの、不安そうな顔を見ながら。


 ――ニナの説得が、功を奏したのかもしれない。


 ソウは、ニナの報告を聞いてから、色々と考えていた。


 ――思い過ごしなら、オレを隣に乗せるのを拒否したのは、単純にオレを毛嫌いしてるからだ。


 ――だが、もし理由が、それ以外だとしたら……




「おい、やっぱり一条は出ないぞ」

「高順位取るなら、今日しかないな」

 加賀美とニナがスタートラインへ向かった後、まだピットに残っている他チームの控えメンバー達がコソコソと話している。


 ――そういえば、ピットでレースを見学するのは久しぶりだな。


 ソウは、ピットの壁上部に設置された大型モニターを見た。コースマップと順位表、コースの各所に設置された定点カメラの映像で画面が構成されている。

 今回のコースは、複雑ではないながらもコースが長めで、かつ、動く壁、落石地帯、溶岩エリアなど、回避や防御に魔力を使用する場所が多い。

 “打開”には、うってつけのコースだ。


 ――ニナは「うまく狙撃できるか不安」と言ってたが……うまくやれば、“無敵道化スター”だけで上位を狙える。ただ、加賀美と打ち合わせる時間は無かったな。


 加賀美はギリギリの時間にやってきた。「来ないんじゃないか?」と心配したほどだ。結果として彼は来たわけだが、ソウやニナより早く来て機体の整備をしていた第1レースとは打って変わった遅さだ。


 ――なんか、どうも不安を感じるな。




 全機がスタートラインに並び、エンジンを吹かし始める。

 ピットに待機する面々は、ざわつきながらその様を見物している。




 スタートの合図とともに、全機、一斉に走り出した。




 スタート直後、前に出たのは2機。

 片方が“迎撃ミサイル”で先制攻撃を仕掛けるが、もう片方はギリギリで回避。壁に跳ね返った魔力弾が、後ろの機体群を襲う。

 一機が、運悪くその跳弾に当たり、減速。中位集団から離れ、遅れたところからの再スタートとなってしまった。


 そのさらに後ろに、2機。

 「ニードルズ」棘野とげのと、加賀美・ニナの機体。

 どちらも“打開”前提の機体。予定通りの滑り出しだろう。




 戦術<打開だかい>。


 上位機体が走行や“迎撃ミサイル”、“加速ブースト”をした跡に残る、魔力の残滓ざんしを拾い集め、レース後半に一気に使用することで上位へ食い込む戦術。

 前の機体が落とした魔力を拾う必要があるため、スタート時に出遅れた機体よりもさらに後ろを走るのが基本。




 コースにカーブは4箇所しかなく、残りの直線コースには全て、何らかのギミックが仕掛けられている。


 加賀美の機体は、1周目はセオリー通り、魔力を集めながら最後尾で走る。動く壁や落石を喰らって魔力を消費しないよう、速度を落としてでも回避しながら進んでいた。




 だが、1周目の終盤から、動きが少しおかしい。




 11位、少し前を走っていた棘野の機体めがけて、“迎撃ミサイル”を2発撃った。しかも、1発は普通の“迎撃ミサイル”ではなく、大きな魔力を消費する“赤い追跡者レッド・トレッフェン”だ。




 特殊武装<赤い追跡者レッド・トレッフェン>。


 ロックオンした敵車を追尾する特殊な”迎撃ミサイル”。追尾にも魔力を消費するため、通常の”迎撃ミサイル”よりも魔力消費が大きい。




 ――棘野より、前に出たいのか?


 コース上の魔力の残滓を棘野に回収されてしまい、思うように魔力をめられないからか? とソウは考えたが、それにしては、その2発の攻撃を迎撃されて失敗した後は、平然と12位のままで走り続けている。


 2周目に入ると、さらに挙動がおかしい。


 落石地帯でわざと減速し、上から降ってきた岩の直撃を喰らった。


 何も無い直線で、なぜか蛇行運転をする。


 ――何か、あったのか?




 ソウは、ポケットの中のスマホが、着信のバイブで振動していることに気付いた。

 画面を見ると、発信元はまさかの、今レース中のニナだ。


 ――レース中に連絡してくるなんて、余程のことだぞ!?


 ソウは、急いで通話を開始する。


「どうした?」

「ご、ごめん。本当は、レース中に通話なんてダメだと思うけど……」

「レースの規定ルールにスマホの使用制限なんて無いよ。何かあったの?」

「か、加賀美くんが……えっと……」

「加賀美が、どうしたんだ?」

「えっと、なんか、スマホの画面を見ながら、変なことを始めちゃった……」




「……はい?」







<“D-3リーグ”Fブロック第3レース 現在順位(括弧内は所属チーム)>

1位 ローデス(Dan-Live A-Team)

2位 緑川快(アカガメレーサーズ)

3位 ゴリラ(動物園)

4位 戸倉洋二(千種食器)

5位 片岡栄吾(ハバシリBチーム)

6位 山坂まこ(お茶の間親衛隊)

7位 鷹野美宇(グラビアレーサーズ)

8位 キング(シャドウズ)

9位 ちゃっす(お笑いの走り手達)

10位 あるいはなあ(言葉遊びレーサーズ)

11位 棘野順二(ニードルズ)

12位 加賀美レイ(チーム望見)

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