第2章 D-3リーグ
Race.1 D-3第1レース
第22話 博士ちゃんの研究室訪問
ある日、レーサーの
目的は、チームリーダー・
「地図によると、この辺のはずだけど」
スマホの画面をまじまじと見つめながら、加賀美が言う。
「地図の見間違いじゃないのか?」
ソウは周辺を見回しながら言う。
ここは郊外というより、街の外れからさらにもう一歩出た、草原だ。
「いいや、間違いない! だってGPSも使ってんだぜ? きっと、
そのときソウは、作業着のポケットに入れたスマホが、振動するのを感じた。ソウはスマホを取り出して画面を見る。
「お、ニナから返信が来てる」
「博士ちゃんから? お前に?」
「さっき送ったんだよ。『もうすぐ着く』って。なになに……? 『出てくから、地図の場所で待ってて』」
ソウが返信を読み上げた瞬間、目の前の足下にあるマンホールの
「わあっ!?」
「きゃあ!?」
驚いた加賀美が声を上げると、マンホールから顔を出しかけた女性が声に驚き、下へ引っ込んでいった。
もう一度『ゴトト』と音を立てながら、マンホールの中から望見ニナが姿を現した。
「博士ちゃん……そんなとこで、何遊んでんの?」
遊具で遊んでいる小学生を観察するように、加賀美は生暖かい眼差しでマンホールから出てきたニナを見る。
「あ、遊んでない。ここが出入り口なの」
そんな加賀美の視線に、ムッとした表情のニナ。
「
大きめのマンホールと思われた穴から中に入ると、これがちゃんとした出入り口であることがわかった。足はすぐに床に着地して、ニナが手元のスイッチを押すと床が昇降する。下まで降りると、目の前には広い通路が広がっていた。
「地下にあるのか。どうりで外を見渡しても、見つからないわけだ」
ソウは、細いトンネルのような通路で、ニナの後ろを歩きながら感想を述べる。
「小さなダンジョンみたいだ」
「こ、ここが一番買いやすい土地だったから。大学生だった頃の私でも、バイト代でギリギリ買えた……」
「ちょっと待って!」
加賀美がニナの発言に仰天する。
「博士ちゃん、『大学生だった』って、もう大学卒業してるの!?」
「え、うん……」
「……飛び級?」
「ち、違うよ。普通に、22で卒業して……」
「22!? 博士ちゃん、17歳くらいにしか見えんが!?」
「そ、そう? ほ、褒めてくれてありがとう」
「いや、普通に二十代には見えねぇ……」
加賀美の意見を聞きながら、ソウは車椅子を操作して隣を進む、ニナの横顔を見下ろす。
初めて会ったときよりも明るい表情をしているからか、第一印象よりも幼い顔つきに見える。
相変わらず目元に
そんなニナの造形にはおよそ似つかわしくない、茶色い汚れが沢山ついた白衣。
白衣の下は、「がんばる!」と大きく書かれたTシャツ。
「そのTシャツ、どこで買ったの?」
会話が途切れていたので、ソウはとりあえず一番気になったことを尋ねた。
「お、お姉ちゃんのお下がり」
「キミのお姉ちゃん、どういう人?」という質問が思いついたところで、目の前の大きなスライドドアが自動で開いた。
「ど、どうぞ。着いたよ。私の
そこは、ソウが想像したものとはかなり様子が違っていた。
灰色の壁に設置された棚には、様々な植物が生い茂る植木鉢や、色とりどりの瓶。別の壁際にある大きな本棚には、分厚い本がびっしりと並ぶ。
パソコンとプリンターが置かれた一部の区画以外は、植物学者の研究室だと言われても違和感がない内装だ。
天井には天窓があり、暖かな日差しが入ってきている。
「なんというか、思ったよりずっと、あったかい雰囲気だな」
ソウはそう言いながら、少し安心した気持ちになっていた。
――ずっといたら病みそうな部屋を想像したけど、全然違ったな。
「確かに。研究室っていうか、魔女のお部屋みたいだ」
「ま、魔力の研究もするからかな……」
加賀美の感想に、ニナが応える。
「あ、加賀美くんの機体は奥のガレージだよ。先に見る?」
「じゃあ、機体を見ながら打ち合わせよう」
ソウが提案した。
「その方が話が早い」
「じゃあ、ガレージに案内するね」
ニナは車椅子を動かして、大きめの木の扉へ向かう。
扉をスライドさせて開くと、その奥にガレージが見えた。ソウが立っている位置からでも、二機の機体がガレージに並んでいるのが見える。
「ところでさ」
加賀美が、あらたまったようにソウに言った。
「なんだ?」
「
元・
彼女は 機体に乗って暴走した“雷王”
「
と、ソウに言い放ち、違法賭博レース場を去って行った。
「まあ、とりあえずはオレ達3人で何とかするさ」
ソウは、断られたことに関しては、特にショックを受けてはいなかった。
そもそも“闇レース”に出たのはニナの借金のため。雪野や加賀美を勧誘できたこと自体がラッキーな出来事だ。
「ニナの借金はチャラになったし、お前も仲間になった。少なくとも、これで
「ま、俺らには、一条ソウというスーパーレーサーがいるからな」
加賀美は腕を後ろに回し、気楽そうに言う。
「俺くらいの下手な
「何言ってんだ?」
そんな加賀美の気楽な気持ちを、ソウはアッサリと砕いた。
「最初のレースは、お前が
「は!?」
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