ダンジョンカートDX(仮)無能整備士、レーサーになり成り上がる ~敵車の追尾攻撃は全部避けるのが普通だと思っていました。実はオレ以外、誰もできないらしい
ぎざくら
第1章 プロローグ
Race.1 D-3開幕前エキシビジョン
第1話 無能整備士
「それは、クビってことですか?」
「そう。だってキミ、遅いもん」
整備士の
「わかる? 大事なのはスピードなの。だって、レース中の
右手にコーヒーカップを持ちながら、空いた左手でネクタイの位置を直しながら、社長は感情の
「なんでそんなに遅いの? 嫌がらせ?」
「なんでって……」
ソウは、
言葉通り「嫌がらせで整備に時間をかけた」と社長が思っているなら、弁解の余地があると思ったからだ。
「安全にレースに復帰してもらうためです。特に昨日担当した機体は、損傷が大きかったので大事を取って……」
「その結果が、向こうさんからのクレームなんだわ」
社長は、ソウが言い終える前に口を
「キミの考えとか、どうでもいいの。「整備が遅いせいでレースに負けた」って、ウチのお得意さん、カンカンよ? キミのクビ一つで話が済むだけでも、ありがたいと思わなきゃ」
ソウは大手メーカーの修理下請け企業”ダン・メンテナンス”の整備士だ。
と言っても、現在のクビ宣告が
彼の仕事内容は、他の整備士とともに”
「あとの事は、心配しなくていいよ。キミの代わりは、もう決まってるから」
不満と悲しみの混ざった表情のソウに、社長はそう言って笑顔を向ける。
”
ダンジョン特有の、特殊なギミック。探索で
整備士の主な出番はレース前後と、レース中の
社長は日頃から「タイムと順位こそ、レーサーの命」と言い、最低限の修理で、極力早く整備を終えることを至高とする。
ソウは、社長の理屈が嫌いだ。
――命は、命だ。タイムや順位とは違う。
――整備不足で、事故で死ぬ方が、よっぽど不本意じゃないのか?
「明日から来なくていいから、忘れ物しないようにね。じゃ、次の仕事探し、頑張って」
社長は、
「ホラホラ、さっさと動いて」
「……はい」
これ以上話しても無駄か、と察したソウは、社長に背を向けた。
両手の
ソウは10年前、事故で片足を失った。
Dレーシングの機体は、両手両足が無ければ制御できない。
当時、若干15歳でレーサーをしていたソウは、引退を余儀なくされた。
レースに関わることを諦めきれなかった彼は、整備士になることを決めた。
「ああ、あの人が、前の障がい者枠の人?」
社長室を出た先のオフィスルームでソウは、自分に指を差してくる男に出くわした。
ソウと同じ、作業着を着ている。
左腕の肩から先が、無い。
周りには、数人の作業着の男達。
これまで、ソウと同じチームだった整備士達だ。
「オレが来たから、もういらないってわけか」
ニッコニコの笑顔でソウを指差す、
「そうそう、障がい者は一人は雇う義務があるからな。有能なお前が来てくれて助かるよ」
彼の言葉に笑顔で返す、元・同僚の一人。
暗い表情のソウには言葉をかけず、ニヤニヤしながら、物珍しいモノを見るような視線を送る。
彼らは……同じチームの整備士達は整備が早いが、作業が雑だ。部品のつけ忘れもよくある。だが、運良く大事故には至らず、レーサーからクレームを受けたことも無い。
整備の遅さで怒られるソウを見て、いつも遠くから指を差して笑っていた。
「おい、一条! この人、片腕だけど仕事めっちゃ早いぞ!」
「両腕あるのに遅いお前、なんなの?」
「たっはっは!」
ソウは男達の言葉を無視し、笑い声を背中に受けながら、オフィスを出た。
――さて、どうするかな。
ソウは、2年勤め上げた会社のビルを背に、考えた。
就職してこの町へ来てからは、一人暮らし。実家の家計は苦しく、頼って負担をかけることなど、とてもできない。
――とりあえずは……バイトで稼ぐか?
考えながら、気分が重くなるのをソウは感じた。
――何やってんだろうな、オレ。
今まで働いていたチームで、ソウがレーサーから
他の整備士達からは”ノロマ”と
それでもがんばって、がんばって。
その末、得た結果が”クビ”。
「……レーサーじゃあるまいし」
ふと、ソウの口から言葉が
「早いのが、そんなに偉いかよ」
ソウが片足を失った事故は、レース中に起こった。
原因は、直前の
それが彼の整備を、慎重にさせる理由なのかは、ソウ自身にもわからない。
「……レース、したいなあ」
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