第32話 オーガロード

「パパ! おかえりなさい! おしごとおつかれさま!」

「あなた、騎士団のお仕事お疲れ様!」

「あはは、ただいま!」


 街中の広場。

 騎士団の男とその男の妻と娘が待ち合わせをしていた。


「きょうはあたしのおたんじょうび!」

「あはは、そうだな、じゃ、今日はお祝いに美味しいご飯でも食べよう!」

「やったぁ!」


 今日は娘の誕生日だった、両親である男女は娘の誕生日を祝うために、豪勢な食事を娘に食べさせてあげようと考えていた。

 誕生日の主役も、それを楽しみに広場で父親の帰りを待っていたのだ。

 和気藹々と会話をする家族……そんな中、猫背の女がゆっくりとその家族に近づく。

 女は頭から角が生え、目は満開の一輪の花の如く開いていた。

 角が生えているのは、この国では別に珍しい存在ではない。

 エウロプがそうであるように、動物の耳や尻尾が生えている人々も普通に街中を歩いているくらいには、珍しい存在ではないのだ。


 ……しかし、女の姿はどこかおかしかった。


「ねぇ……愛をちょうだい……」


 女は家族に向かってそう声を掛ける。

 男は女の様子がおかしいことに気づき、咄嗟に家族の前に立ち、武器に手をかけた。


「……あんた、何か用か?」

「愛が……欲しいの……その愛……ちょうだい……」

「愛?」


 男は家族に向こうに行くよう指示し、妻は子どもを抱えて走り去った。


「残念だが、宗教勧誘とかなら他所でやってくれ、俺は少し忙しいんだ」


 男は後ずさりをしながら、震え声でそう言った。

 女は……男に近づきながら、念仏のように唱え続ける。


「愛……アタシ……愛が欲しいの……愛してほしいの……愛されたいの……愛を……愛をちょうだい……愛をちょうだあああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!」


 ……女、ヒドラは……屈強な鬼の怪物に変貌した。


「こ、こいつは……噂の喋るモンスターか!?」


 男は距離を取りつつ、武器を構えた。


「きゃあああああああああああ!! 化け物よ!!」

「助けて! 誰か!」

「に、逃げろ!!」


 変貌したヒドラを見て、市民は遠くへ遠くへと逃げていく。

 ……そんな中。


「あれが噂の!?」

「よっしゃ! ぶっ倒して報酬ゲットだ!」


 偶然居合わせた冒険者たちは、武器を構え、戦う準備を整えていた。


「愛を……愛をちょうだい……アタシを愛してええええええええええええええ!!」


 ヒドラ……オーガロードは、欲望のままに、暴れ始めた。

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