閑話 愛が欲しい

「クソ……最近全然稼げねぇ……これもアニマのせいだ……あの女……」

「ねぇねぇ、カロン、そんなイライラしないでさー……今日……どう? あんな女の事なんかどうでもいいじゃーん」

「……クソ、許せねぇ……あの女……」


 カロンの耳に、愛する女の言葉など届いていなかった。

 彼の頭の中は、愛する女よりも憎い女で一杯であった。

 ……そんなカロンの姿に、ヒドラは激昂した。


「……何よ! アニマアニマって! あんかクソ女の方がアタシよりも優先されるわけ!? ありえないんだけど!」

「俺はあの女のことをぶちのめしたいだけだ! それはお前も同じだろうが!」

「そういう問題じゃない! 私を見てよ!」


 2人はくだらない口論を始めてしまった。

 それを見たもう1人の仲間……ニクスはというと。


「あぁ……こんなところにも汚れが……水で洗い流さなきゃ……でも、水につけると腐っちまう……どうすればいいんだ……」


 仲間のことなど気にも留めず、自身の弓の心配をしていた。


「もう……カロンなんか知らないんだから!」

「おい!」


 ヒドラはカロンを突き放し、どこかへと走り去った。


「もう……カロンなんか、カロンなんか!」


 ヒドラは涙を浮かべながら、無心に走り続けた。

 人ごみの中に入っても、まるで草をかき分けるように、彼女は走り続けた。

 ……気が付くと、彼女は暗い路地裏へと入っていた。


「うぅ……カロン……私を愛していないの? あんな女ばかり……私を……私を愛してほしい……カロン……」


 ヒドラは走りながら、愛について考えていた。

 彼女の顔は涙で濡れ、既に前がぼやけていた。

 ……しばらく走る彼女であったが、突如何かにぶつかり、転倒した。


「きゃぁ!?」


 前を見ていなかったヒドラは後ろへと倒れた。

 何かにぶつかったことで、彼女は正気の戻った。


「ちょっと! どこ見てんのよ!」


 ぶつかった何か……それは、人だった。

 ……燕尾服を纏った、褐色肌の女性、カーリナだ。


「これはこれは、申し訳ない、立てますか?」


 カーリナは詫びるかのように、ヒドラに手を差し伸べる。

 ヒドラは憎たらしくそれに答えるように手を掴んだ……が。


「ぐはぁ!?」


 カーリナはヒドラを引っ張り上げると同時に、もう片方の手でヒドラを突き刺した。

 もう片方の手は、まるで爬虫類のような形状になっていた。

 カーリナは足の裏を使い、ヒドラを突き放した。


「……こいつも外れか?」


 ヒドラは……まるで何事もなかったかのように立ち上がり……頭から角が生え、目は興奮しているのか、全開だった。


「なるほど……オーガロードに覚醒したようだな……では、まずはその欲望を最大限まで開放しろ……そうすればおのずと安定に近づく……運が良ければまた会おう」


 カーリナは別の目的のために、どこかへ飛び去った。

 ヒドラは……今最も満たしたい欲望を口にした。


「……愛をちょうだい」

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