第三話

「飛奈さんお待ちしてました。先日のイベントはいかがでしたか?」

「良い人はいたんですが、その人は他の女性を選んでしまったようで」


「そうですか、それは残念でしたね。それではこちら側から飛奈さんに提案なのですが、、」


 来た!そう言いながら高額の講習を勧めてくるのよね?


 コーディネーターはタブレット端末を取り出し、私に見えるように向けてきた。そこには男性側から見た私の印象のアンケートが綴られていてまとめられていた。


『外見は清潔そうに見えたが食べ方が汚く、食品カスが飛び散っていて引いた』


『丁寧に話そうとしているようだが、ところどころタメ口になっていたので引いた』


『色艶が良い綺麗な髪をしているのに、癖なのか手で掴み上げてしまい髪が乱れ、乱れた髪を直そうともしないので清潔感が失われていた』


『服の隙間からチラッと見えたインナーが色褪せていて、質感がヨレヨレだったので引いた』


『お淑やかな人なのかなー、と思っていたが急にオジさんみたいな笑い方をしたのでビックリした』


『話を振られたので話し始めたら、他のことが気になりだしたようで全然話を聞いてくれなかった』


『これ高そうとか常に言っていて貧乏性な人なのかなー、という印象だった』


 そのアンケート結果を見たコーディネーターは絶句していた。悪いところを言っている人ばかりじゃん、とでも思ったのだろう。私にどんな言葉をかけたらいいのか迷っているようだった。


 返す言葉もない。私ってこんな見られ方してたのかと思い恥ずかしくなってきた。偵察に来たというのに的確な指摘だらけで、直さなくてはいけないところだらけで自分でもびっくりした。


「飛奈さんこれが今の男性側から見られている素直な印象です。これは、、ちょっと、、もう少し女性らしくしましょうか、、」

「は、はい、、」


 明らかに呆れているような感じで言われ、恥ずかしくて仕方なかった。きっと心の中では大笑いしていることだろう。私の良いところを言ってくれる男性は、世の中にはいないのだろうか?


「私どもはただ結婚相手を提案するだけではなく、理想の男性の好みの女性になれるような提案もしています」


「どういうことですか?」


「男性の皆さんが求めているような女性になることができれば、男性とのマッチングも容易になるということでマナー講習を勧めたりしているのですが、、」


「飛奈さんは越えなくてはいけないハードルが多すぎます。どうしましょうか?」


 私の男性側からの印象が悪すぎて直さないといけないところだらけだから、受けなくてはいけないマナー講習が多すぎて大変ですね、とでも言いたいのだろうか?終始バカにされ笑われている気分だ。


「取り敢えず、全部説明お願いします」


「分かりました。長くなると思うので覚悟してください」

「はい」


「まず食べ方がよくないとのことなので、テーブルマナーの講習が必要かと思われます。テーブルマナーを知っていれば男性からいつどこに食事に誘われたとしても躊躇することなくお誘いに乗ることができます。知っていて損はないです」


「次は、タメ口が出てしまうとのことなので言葉遣いの講習も必要でしょうね。敬語がしっかり身に付いていないので表現しやすい、いつも使っている言葉がついつい出てしまうのでしょう」


「それと乱れ髪が気になっている方がいられたようなので、身だしなみに気を配る講習も必要でしょう」


「ファッションコーディネートもでしょうね。おしゃれは見えないところも怠ってはダメですよ」


「次はオジさんみたいな笑い方ですか?表情筋を鍛える講習も受けてみましょうか?」


「それと聞く力を身につける方法、金銭感覚を身につける講習もですね」


 直さないといけないところだらけじゃないか、何年かかんだよ。つーか直さないとダメなのか?直さなくても受け入れてくれる人紹介しろよ。


「それぞれ講習の初回の料金は無料です。2回目から有料になって皆さん大体平均5回ほど受講されています」


「有料っていくらくらいなんですか?」


「2万5千円です」

「2万5千ですか!?」


「それで改善するものなんですか?」


「そうですねー、人それぞれ癖というものがありますからね、なかなか抜けず長い方ですと10回20回と重ねていらっしゃる方もいます」


「20回っていくらかかるんですかー?」


「講習1回ごとのお支払いですと初回が無料なので47万5千円となりますが、まとめてお支払いいただきますと割引料金になります」


「割引っていうと?」


「5回分まとめてお支払いいただきますと12万5千円のところ12万円で、10回分だと25万円が23万となり、おまとめ回数が増えるほどお得になります」


「ちなみに講習は一律2万5千円になりますので、途中でコース変更も可能です。飛奈さんは受けなくてはいけない講習が多そうなのでおまとめして頂いた方がお得ですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る