最終話
犬の殺処分は年々減少していっている。しかし引き取り業者がいることなど世間一般の人には知られていない。悪質な引き取り業者が闇で知らぬ間に多くの犬を殺処分してしまっていたら、表向きには減っているように見えるだけで何も変わってないことになる。
私達は今日一つの悪質業者を潰すことができた。もう悪質な業者がいなくなっている事を祈るばかりだ。引き取り業者のアジトを急襲すると一気に制圧し始末をつけ、急いで夢の国に向かった。
急襲は思いの外上手く行き、夜のパレード開始まで十分な余裕があったので、私達は時間まで買い物をしてようとグッズショップに向かった。中は沢山の人で賑わいを見せていた。
色とりどりの商品が並び、皆一様に目を輝かせ素敵な表情を見せている。飛奈達もそうだった。アレだけの壮絶な現場の後だというのにそんなことを感じさせる事なく、向こうの棚を見に行こうか、こっちの棚にしようかと右往左往していた。
「あー、天衣ちゃんこれちゅけましょうねー」
「そうですねー、皆んなで付けましょ」
いつもなら飛奈の勧めは嫌がる天衣なのだが、今日は自分から積極的に耳付きの帽子を被りたがっているようだった。やはりこういうところに来ると同調効果というものが働き皆んなと同じような定番の行動をしたがるものなのだろうか?
飛奈はここぞとばかりにモフモフ付きの可愛い帽子を見つけ出し天衣に被せ、可愛い、可愛いを連発していた。
梨名と華鈴さんも目をキラキラさせながら帽子を選んでいた。彼女達の普段の素行からは考えられない、普通の女の子の姿がそこにはあった。先程まで地獄のような空間にいた姿とは違う普通の姿が見られた。
引き取り業者の存在に気付かされた時、天衣は今日は夢の国はお預けですかー、と悲しげな声をあげていた。が、手早く片付けたら夜のパレードに間に合うと聞かされるとすぐに行動に移していた。そして本当に数分とかからず手早く片付けると現地に向かった。そして今現在に至る。
「リーダー、これ買って下さい」
そう言って天衣はかなり大きめの象のような、恐竜のようなぬいぐるみを持ってくる。何のキャラクターなのだろうか?もうかなりのお気に入りになっているのだろう。胸に強くギュッと抱きしめられていて離そうとする気配がない。そんな大きいぬいぐるみどうやって持って帰るのよ、と突っ込みたかったが、あまりにも目をキラキラさせているので止めておく事にした。
そこには冷たい目の悪魔と呼ばれていた娘の姿など微塵もなかった。梨名も気に入ったぬいぐるみが見つかったのか、離そうとする気配がなくずっと抱きしめている。
普段の彼女達の姿を知っているからか、普通の女の子より可愛い仕草に見えて愛おしい。そしていつも言葉遣いが悪いくせに、こういう時は可愛い言葉遣いになっているようだった。
華鈴さんはぬいぐるみよりアクセサリーコーナーの方が気になっているようだ。お姫様のような髪飾りを付けては外すを繰り返している。そんなの買って帰っていつ付けるのよ、絶対使う機会ないでしょ、と突っ込みたかったがこの娘もまた普段では見られない様な輝いた目をしていたので止めておいた。
そしてパレードの時間となりそちらへ向かう。私に早く行くわよと言われ名残惜しそうに付いて来る。一瞬暗い表情になったが、向かった先が光が煌めきあう幻想的な空間となっていたので、今まで以上の煌めいた笑顔になった。
「きれーい」
「美しい光景ね」
「心が癒されるわー」
「来てよかったねー」
それぞれ歓喜の声を上げる。
「結局あなた達、今回なんのために業者やっつけたのよ」
相談に来た女性からは礼金は受け取らず、施設長阪口、室長高畑から奪ったお金は全て愛護団体に寄付してしまった。
「そりゃー、正義の名の下にやったに決まってんだろ」
臭いセリフだったがその場の雰囲気もあり、私はその言葉に感銘を受けてしまった。が、、。
「梨名さん頭おかしくなったんですか?狂犬病ウイルスに感染したんじゃないですか?」
と天衣が茶化してきた。
「年中狂犬女に言われたくないわ」
「ひどっ!誰が狂犬ですかー?」
「ちょっと、あなた達いい加減にしなさい。折角のいい雰囲気が台無しじゃない!」
「うっさい、陰犬女は黙ってろ!」
「ひどっ!てか陰険のけんは犬じゃなくて険でしょうが」
「やかましい、好き好んでケージの中に引きこもってる陰犬女が」
「華鈴さんどうせ引きこもっているなら、虐待犬と変わってあげたらいいんじゃないですか?」
「ひどっ!」
またいつもの戯れあいが始まった。本当にこの娘達は仲良いんだから!
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