第二話
東の空がうっすらと明るくなり始めた早朝、柴村保乃は班長だった八神哲也のお墓を訪れていた。私が来た痕跡は残せないのでお花は供えられない、線香だけ上げ手を合す。
『あなたは大沢拓郎の真実を知っていたのですか?』と、心の中で問い掛ける。私だってなんとなく気がついていた。洞察力に優れた班長が気がついていない訳がない、知っていて見逃していたのですか?でも正義感の強いあなたから考えるとそれも考えられない。答えを聞きたいが、でももう答えを聞くことは叶わぬこととなってしまった。
私がきちんと対処していたら、、相談していたら、、また違う結果になっていたのだろうか?後悔だけが残る、、。
『あなたは何を守っていたの?』この言葉が脳裏から離れない。国の要人を守る事がこの国の安定に繋がっていると思っていた。でもそれは違っていた、最低のクズを守っていた。私はあんなクズを守るために、努力を積み重ねてきたんじゃない。
私は決めた、権力を握り裁かれる事がなくなったクズに裁きを下すと。
「有美これからどうするの?」
「私はここで研究を続けるわ」
有美の手にはクシャクシャになった新聞が握られていた。なんて書いてあったかは想像がつく。
研究施設に火山性ガス噴出か!?そんな言葉がニュースで飛び交っていた。大沢拓郎は可燃性ガスに巻き込まれ、多くの研究員は有毒ガスで意識混濁、飛奈の企ては世間に広がる事なく見事に隠蔽されてしまった。
有美はだいぶ抵抗したみたいだが、研究費の助成を止めることになっても良いのか?その一言で言いくるめられてしまったそうだ。
研究費が出なくなって仕舞えば確立しつつある治療法の研究も、開発しつつある長期保存可能な食品の研究も全て頓挫してしまう。口を噤むしかないそう決断したようだった。
暗い雰囲気にならないように話を変える。
「朱璃は今日は来ないの?」
「妃花留ちゃんと流唯ちゃん地元に帰れることになったからその手続きで忙しいんだって」
「そう」
「知ってる?妃花留ちゃんと流唯ちゃん正門まで行ったのガチだったんですって、マジしんどかったって言ってたわよ」
本当にあの日はしんどい一日だった。
「それより、有美は彼氏とかいないの?」
「あはは、ぜんっぜんダメ、年中研究室に篭ってる引き篭もりだから」
「あのパクって人とはどうなの?」
「えー、ちょっとそういう目では見れないかなー、そういう自分はどうなのよ?」
「私はダメ、こんな肩幅ひろい筋肉ダルマなんて誰も相手にしてくれない。顔は可愛いんだけどねー」
「それ自分で言う?」
「その服今年の新作?可愛いね」
「あー、これね、私無駄にポチっちゃうのよねー。よかったら今度ウチ来る?何か気に入ったのあればあげるよ?」
「有美が着てる服、私に合うサイズとは思えないけど、でもいつかお邪魔したいかも」
「よし、じゃあ今度女子会しよう。また来るわ、飛奈も言ってたけど時々ここの高性能機器の力借りにくるかも知れないから」
「ええ、でもそれだけじゃなく、時々そちらの状況教えに来てね」
「了解」
有美は飛奈達の活動自体は認めたらしいが、そんな危険な事あなた達がやるべきでは無いと反対はしていた。
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