悪徳権力者を始末しろ!

加藤 佑一

第1章 悪徳研究者をやっつけろ!

第1話 暗殺計画開始


『強毒性のインフルエンザウイルスを発見、分離に成功』


 今回発見したインフルエンザウイルスは感染後、鼻粘膜で異常増殖し嗅覚神経を介し脳へ移行しやすい性質を持っていて、容易に脳炎又は脳症を起こしやすい性質を持っている。

 このタイプのインフルエンザウイルスに感染すると、感染後、数時間で脳炎症状を呈し人間は自我を失う。

 呼びかけに応じる事は無くなり、尋常でない喉の乾きを訴え、過量の水分を摂取したがるようになる。

 一般的な抗インフルエンザ薬は有効で重度の脳炎に移行する前、感染後48時間以内に投与すれば症状は劇的な改善を示す。


 開かれているパソコンの画面にそう表示されていた。


「もっと詳しい資料引っ張り出せますけど、どうしましょうか?」


 インフルエンザウイルスなどを研究している感染症の研究施設にハッキングし、その画面を開いてみせた吉田華鈴(かりん)が、一緒に画面を覗いている私を見上げながらそう言ってきた。


 このチームのリーダー私、田渕飛奈は吉田華鈴、川崎天衣(あい)、池上梨名の力を借り、兼ねてより黒い噂の絶えない政治家、大沢拓郎の暗殺を計画していた。


 どうやって暗殺しようかと画策していた時、華鈴がそんな記事を見つけてきてくれたのだ。


「それだけで十分。専門的なところは任せるわ」


 文字の羅列が止めどなく続いていたので、私は読むのを諦めた。華鈴は頭がキレる上にパソコン関係に強い。私が口出すより華鈴に作戦を考えてもらった方がいい、そう思ってそう返した。


「現段階でこのウイルスを使って、パンデミックを起こすのは無理でしょうね」


 少し考え込んだ後、画面を見たまま華鈴はそう答えた。


「パンデミック?」


 うちのチームで最年少の川崎天衣が聞きなれない単語に疑問顔をする。


「ウイルスなんかが原因で感染症が急速に広がって、世界中で大流行を起こすことよ」


 隣にいた池上梨名が鏡の中の自分を見つめ、前髪を整えながら答える。


「あー、コロナみないなもの?」


「そうよ。でも、何も知らない人が脳炎状態の人を見たら驚くでしょうね」


 二人を横目に見ながら私は続けた。


「まあ恐らくはね。最近流行りのゾンビとかホラー系の映画とリンクさせちゃうでしょうね」


 椅子を左右に揺らしながら、華鈴は薄笑いを浮かべながらそう言う。その表情はそれはそれで面白そうじゃんと言いたげに見えた。


 天衣はいまいち私達の会話の意味を理解しきれていないのか、眉間にシワを寄せ難しい顔をし、首を傾げながら私と華鈴の方に忙しない視線を送っていた。


 最年少の天衣は皆んなに可愛がられている。可愛がられるのを表面では嫌がってみせてはいるが、悪い気はしてないようだった。

 キョロキョロとしている天衣の仕草に愛着を覚えた私は、後ろから抱きつき肩に顎を乗せ詳細を説明した。


「このウイルスに感染しちゃった人達はね。意識が朦朧としちゃて自分で何をしているのか分からなくなっちゃうの」


 天衣は抱きついてきた私を突き放そうとしてきたが、そのまま話を続けた。


「話しかけても反応無いし、言葉も理解しているのかあやしい状態になっちゃってて、焦点もおぼつかなくなっちゃってて死んだような目になるの」


 大好きな天衣ちゃんに頬擦りし、体を撫でまわしながら説明していると、腕を振り払われ突き飛ばされ、『ちゃんと真面目に説明してください』と、睨みつけられてしまった。


 その顔がまた愛くるしい。


「意識がはっきりしてない状態なんだけど、このウイルスに感染すると尋常じゃない喉の乾きを覚えるらしいのね。だから水を求めてフラフラとさ迷い出しちゃうの。そして、水場を見つけると餓えた獣のように貪るように水を飲み出すの。その姿はさながらホラー映画の人の肉に群がるゾンビを連想させるでしょ」


 表情を加え、身ぶり手振りを加え腕を振り上げ襲いかかるポーズをすると、『やめて下さい』と、言って身を縮めてきた。


「分かった?」


「分かりました。分かりましたからもうやめて下さい」


「本当かー?」


「本当です。それは、気持ち悪いですね」



「で?私達は何をすればいいの?」


 梨名は天衣と戯れあっている私の事を呆れた目で見ながら、その先を急かすように聞いてきた。


 私が答えないでいると華鈴が代わりに話し始めた。梨名の方にチラリと目をやった後、意味ありげな笑みを浮かべる。


「このウイルスを研究している施設内には複数の部所があって、昼夜を問わず研究を続けている職員が何人もいるのよ。そいつ等にこのウイルスを感染させる」


「えっ!」


 梨名と天衣は驚きの声を上げ目を見合わせた。


「何のために?」


「この研究施設を創設することに尽力した、次期総理候補ナンバーワンの衆議院議員、大沢拓郎の視察があるの。その視察時期に合わせパンデミックを起こすのよ」


「起こすって?さっき難しいって言ってたじゃないですか?出来るんですか?」


「バカのくせに意外とちゃんと人の話聞いているのね」


 華鈴にバカ呼ばわりされ怒った天衣だったが、話の先を聞きたい梨名によって静止されていた。


「計画はバッチリよ。大沢拓郎の視察の前日にこのウイルスを研究所内にバラ撒くの。そうすると次の日、脳炎状態の患者で研究所内は溢れ返ってるって寸法よ」


 華鈴は混乱した情景を思い浮かべているのか、口元に拳を当て、意地悪そうにクスクスと笑い出す。


「患者で溢れ返るって!?少なからずとも感染症に知識のある人達だろ。そう簡単にいくのか?」


 梨名が素朴な疑問をぶつける。


「免疫を下げてあげるのよ」


「免疫を??」


「ええ。昼夜を問わず研究に没頭しているってことは、それ相応に疲れは溜まっているはず、それに加え空調を故障させ施設内の温度を下げる」


 天衣はその説明では『ぜんぜん意味が分からないです』との視線を向けていた。


「身体に鞭打って、夢中になっているところをついて、体が冷えている状態を作り、体の体温を下げさせ抵抗力を弱くする。そこへこの感染力の強いインフルエンザウイルスをバラ撒けば、まず間違いなく感染するわよ」


 華鈴はそう付け加えた。


 まだ半信半疑の梨名と天衣はそんなに簡単に行くものなのだろうかと疑問顔をしている。

 映画とかではゾンビに噛まれるとすぐゾンビになっちゃうけど、街中で風邪の人がいてもそうそう風邪が移ってしまうことはない。


「インフルエンザって風邪の強いヤツみたいなのだろ?最近なった事ないんだけど?本当に感染させられるの?」


「バカは風邪にならないけど、施設内の人は皆んな頭良いから大丈夫よ」


「何だとーっ!」


 華鈴にそう言われ怒った梨名はヘッドロックをする。しかし華鈴は器用に頭を『スルっ』と、すり抜けさせた。


「この世紀の大天才に向かって何を抜かすかー!貴様だってここ最近風邪なんて引いてないだろー」


 そう言いながら梨名は剣など持ってないのに八相の構えのポーズを取る。きっと最近見た時代劇系のアニメの影響なのだろう。


「最近、鼻グズグズしてたしー」


「そりゃー、花粉症だろ!」


「喧嘩両成敗じゃ、神妙にお縄につけー」


 天衣まで加わってきた。


「コラーっ!真面目にやれーっ!」


「すいませんでしたー」

「すいませんでしたー」

「すいませんでしたー」


 私が一括すると3人は自分の定位置へと戻って行く。ったく何やっとんじゃお前らは。アホどもがっ!


「別に全員感染しなくても数人なってくれれば、大騒ぎになるから大丈夫よ」


 完全に話が逸れてしまっていたので私は無理やり軌道修正をする。


「ただ問題が一つあって、インフルエンザウイルスは空気感染はしないから。研究所の職員が残っている部屋まで行ってバラ撒いてきてちょうだい」


 華鈴は急に真面目な顔に戻ってそう言った。


「りょーかい!」


 これが私達がこれから行う計画の第一段階だ。よく分かってない二人にとりあえずやるべき事を簡潔に言ってくれて助かった。


「私達がウイルスバラ撒いて来るの?えーっ!それってけっこうヤバいんじゃないのー?」


「私達がゾンビになっちゃったりしませんか?」


「大丈夫。抗インフルエンザ薬は有効だから。予防で飲んでおけば発病しないわよ」


 梨名と天衣が反論してきたが、華鈴は何か問題でもあるの?と言いたげな感じでサラリと言った。


 『簡単に言いやがって』とでも思っているのだろう。二人は華鈴に冷たい視線を送ったあと、驚きの表情を浮かべながら目を見合わせていた。



 私達の最終目標は施設長の坂口誠司、感染症対策室室長の高畑達也、そして、衆議院議員大沢拓郎を混乱に乗じ暗殺すること。私達の戦いが、幕を開けようとしていた。


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