ぐちゃぐちゃなナーバス

亜未田久志

ステラ


 星よ。

 夜鷹の飛ぶ空よ。

 私を見ているか。

 地に足を付けた私を。

 だから飛ぶ事に決めた。

 

「第一、人間には羽根が無い」

 

 なければ付ければいい。

 そうして人間は進化してきたのだから。

 私は羽根の研究を始めた。

 筋肉質の研究。

 羽毛の研究。

 移植に必要な材料、材質。


「第二、人間には空を長時間飛ぶほどの筋肉量が無い」


 なければ与えればいい。

 ドーピングが禁止されているのは競技内の話だ。

 筋肉量の増強など簡単に出来る。

 

「第三、人間には飛行に必要な視力が足りない」


 視力の補強など、それこそ簡単な話だ。

 レンズを入れ替えてやればいい。

 こうして私は次々と問題点をクリアしていく。

 必要なものを手に入れていく。

 飛行種として生きるために自己を改造していく。


「君の今の姿はまるでキメラだ」


 ぐちゃぐちゃの怪物。

 そう友人は私の事をそう呼んだ。

 悲しくはなかった。

 これも空を飛ぶためだ。

 必要不可欠な科学の犠牲だ。

 そう割り切って。


「本当に?」


 どうだろうか。

 少しだけ、寂しいと思ったかもしれない。

 いまや私は羽根の付いた肉塊に過ぎない。

 空を飛べるかも未知数でしかない。

 グロテスクな異形と化した私を。

 誰も人間と認めてはくれない。

 悲しいのだろうか。

 私はもう人間ではないのだろうか。


 実験当日。

 私は星に向かって飛んだ。

 羽ばたいた。

 異形はふわりと宙に浮く。

 するとどうだろう私の心に変化が生まれた。

 このまま飛んでしまったら。

 もう戻れない。

 空飛ぶ私は人間に戻れない。

 今ならまだ間に合う。

 戻ろう。

 誰かがそう言った。

 気がした。

 だけど、嫌でも身体は空飛ぶように動いて行く。

 思い出した。

 私が空を飛びたいと思った理由。

 科学者として認められたかったから。

 人間として認められたかったから。

 こんなぐちゃぐちゃの姿じゃなくて。

 人間としての私を見て欲しかった。

 唯一の友人も置いて。

 私は空を飛ぶ。

 天が近づく。

 どうしようもなく身体は空へと向かっていった。

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