7
シスイside
あれから午後の分の授業もサクサク終わり、放課後はすぐやって来た。今日は掃除当番でもないのですぐ生徒会に向かえる。そう思っていたのだが、担任の先生に呼び止められた。
「明鏡さん、この資料を職員室まで持っていくのを手伝ってもらえない?」
「ええ、もちろん良いですよ。」
生徒会に遅れるのも日常茶飯事なので即答して件の資料に手をかけた。そして担任の先生と並んで職員室までを歩く。確かにこの量の資料を一人で運ぶのは困難であろうと納得し、雑談に花を咲かせる。
「明鏡さんは皆の憧れだね。文武両道容姿端麗、その上に誰に対しても見せる優しさ……まるで絵に描いたような聖人だ。」
「ふふ、そう言っていただけると嬉しいですね。」
「辛いこととかはない? あったらいつでも相談乗るよ。……ああでも大人には言いづらいこともあるかな?」
「先生、そのお気持ちが私は嬉しいのです。」
ああ、優しい先生に恵まれた嬉しさを心の中で噛み締めると、ホッと心に温かいものが宿った気がした。これは……何だろう?
完璧と言われた私にも分からないことがあるとは、と内心驚き首を傾げた。まあ、そうした所で分かるものでも無かったが。後で珈夜さんにも聞いてみましょう、と決めて資料運びを終わらせる。
「ここで良いですか?」
「うん、ありがとう。ということで手を出して。」
「……? はい。」
言う通りに手を出すと、先生は私の手にコロンと飴玉を乗せた。
「これは……?」
「手伝ってくれたお礼。今日はありがとうねー」
「は、はい……?」
取り敢えず何が何だか分からないまま職員室を後にし、生徒会室へと足を運び始める。
お礼、お礼ってなんだろう? いや、言葉の意味は分かる。が、今のやり取りの中にお礼されるようなことはあっただろうか。分からない。
手の中にある飴玉をコロコロ転がし、ウンウン唸って考える。が、やっぱり分からない。
勉強ならすぐ答えを出せるが、なかなか人間関係についての問題に答えは出ない。私にとっては勉強よりも人間を理解することの方が難しい。
「あ、シスイ様遅いですよっ」
グルグルウンウンと考えている間に生徒会室に来ていたらしい。珈夜さんが真っ先に声をかけてくれた。私はその声に返事をしながら会長席に着く。
「先生の資料運びを手伝っていて遅れました。」
「いつものですね、理解しました。」
「おい生徒会長サマ。遅れるなら言ってもらわないと。何度言えば分かる? 報連相は大事だぞ。」
「すみません。」
紅蓮さんは咎めるように目を細めてこちらを睨む。それに対して申し訳なさそうな表情を作って返事をする。
「お前さんの親は携帯を持たせてくれないのか? 連絡を取るのには便利なんだがな。」
「あ、ああ……まあ……はい。」
親、か。その単語に思うところはあるが目を逸らしてスルーすることにした。
あの人は私に勝手されるのが嫌だろうから、きっと携帯なんてものは与えてくれないだろう。余裕で想像可能だ。ちなみに自分のお金なんてものも存在しないので(バイトも許されないし、お小遣いなんてものも無い)どうすることも出来ない。
我が家は複雑なのだ。
「ふむ、それは不便だな。」
「僕も茨水さんと携帯で連絡取り合いたいな~」
悲しそうな表情を浮かべる緑さんの追撃にウッと詰まり、良心がキリキリと痛んだ気がした。
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