渦潮

水花火

第1話

「先生」

背中から聞こえる生徒の声に麻子は振り返った。麻子より遥かに背の高い広末は、時よりあたりを見渡しながら近づいてきた。

「どうしたの~」

向かってくる広末に声をかけながら、駐車場には、自分の車しかない事に麻子は気付いた。

沈みかけている夕日が、二人の影を縮める。

「あのさ、オレ、今年で卒業だから、言っておこうと思って」

広末が近づき、麻子を見下ろした。

麻子は、なぜだか鞄を持つ指に力が入った。

「いきなりだけどさ、オレ先生を好きなんだよ。三年になったあたりからずっと」

麻子は目を丸くし、半開きになった唇をぎゅっと閉じた。

「広末君、ちょっと待って、好きって言われても…」

広末は言葉を遮るように麻子の肩に手をやり、見つめた。

「先生、オレ真剣なんだよ。先生が春日先生と校庭で笑って話してるのを見た時、二人ともぶっ殺してしまいたいほど憎くたらしくてさ、それで、その時、自分の気持ちに気付いたんだよ。」

麻子は黙った。広末は畳み掛けるように話を続けた。

「オレさ春になれば社会人なんだよ、先生の彼氏になれる権利はあるだろう」

麻子は、近づいてくる広末の唇に、自制心を奪われ心が揺れた。

かつて経験したことのない情熱と、広末の肉体がすぐ目の先で入り交じり、欲望がのしあがっていく。

「広末君、先生びっくりしちゃって、なんと言えばいいのか、、」

麻子は、どぎまぎしながらも、笑顔を向けた。

「先生、何も言わなくていいよ、それが答えなんだから」

広末は麻子を引き寄せた。

二人の間にあった麻子の鞄が、土埃をあげ渦の中に消えていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

渦潮 水花火 @megitune3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る